第2話出会い
『姫様~。お待ちください、姫様。あまり奥まで進みますと危のうございます』
『何が危ないの~?』
私は銀世界が大好きだから楽しくて仕方がない。
『最近、この辺りに凶暴な獣が出るって噂です。怪我人も出たとか荷物を捕られたとか色々と』
イブは息も切れ切れにそう言った。
ちょっと可哀想になり、一応話を聞こうと休憩がてら私は足を止めた。
ここはまだ、お父様の領地内。
毎日、衛兵達が見回りをしてくれているはず。
だからそんな獣がいるってことも信じられない。
今まで聞いたこともないのに、なんで急にそんな話が出だしたんだろう?
『ねぇ。毎日お父様が見回りさせてるの、知ってるわよね?』
『もちろん、存じ上げております』
『だったら獣が出るって話、おかしいと思わない?』
『ですが領地内とは言ってもここはもう塀もないですし、どこかから迷って入ってきてしまったのかもしれませんよ?』
『う~ん。本当に獣なら人間のルールなんてわからないものね』
『そうでございます。なのでいくら領地内であろうと護衛なしで外出は危険ですとあれほど…』
イブが怒りだしそうだったので私はまた歩きだし、でも今度はちょっとゆっくりめに進むことにした。
もしかしたら、本当は獣がいてそれをお父様は内緒にしていたのかしら?
でも、私の性格を知っているなら逆に凶暴な獣が出るから森には行くなって言いそう。
森の中は少し雪が積もっている。
何かがいれば足跡があるはず。
そう思って下ばかりを見て歩いていた。
空は晴れているはずなのに急に地面が陰り、それと同時にイブの叫び声が聞こえた。
『きゃーっ!姫様ー!!』
ハッとして上を向いた。
足跡なんて一切なかったのに…。
目の前にいる相手は太陽を背にしているからはっきりとした姿はわからない。
でも熊のような大きな体で威圧感も十分だ。
その威圧感から、私はビックリして体が動かなかった。
どうしたらいいのかわからず立ち尽くしたままでいると、相手がこっちに向かって走りだした。
イブの言うことをちゃんと聞いておけば良かったと後悔し、目をぎゅっと瞑っていると後ろから何かが走ってくる気配を感じた。
ドスッ
『グオォーーッ!』
鈍い音と共に物凄い叫び声が聞こえた。
誰の声なのかと恐る恐る目を開けてみると、目の前には黒髪の少女が立ち塞がっていた。
『ボサッとしてないで逃げて!』
見たことがない少女。
どうやら少女が持っている剣で相手を止めてくれたらしい。よく見ると相手は熊ではなくこの地域にはいるはずのない狼のようだ。
本物は初めて見た。
なんでこんな所に狼がいるんだろう?
どこから来たんだろう?
初めて見るのに、殺されてしまったらもったいない…。
などと色々考えていたら
『こんなの、相手したことないから勝てるかわからない。だから今のうちに早く逃げて!』
私はそこで、正気に戻った。
考え事をしている場合ではない。
言われた通り私は後ろに走りだし、イブの手をひいてその場を離れた。
雪に足をとられ何回も転びそうになりながら、ある程度離れた場所まで行き2人で様子を見ていた。
どっちが勝ってるのか、ここからではわかりにくい。
少女に勝ってもらいたいとは思う。
でも、あのまま生け捕りにしてみたい気もする。
噂の獣はあの狼なのか?
息を殺して待っていると、突如遠吠えのような鳴き声が聞こえた。
狼は怪我をしたのか、ヨロヨロと立ち去って行った。
あの少女が勝ったのかな?
少女の元に行こうと立ち上がった瞬間、少女はその場に崩れ落ちるように倒れた。
私は急いで駆け寄った。
気を失っているだけのようだが、辺りは血だらけ……。
どっちの血なんだろうか。
心配しながらイブと少女の様子を確認した。
『大きな怪我はないようですわ。この血はあの狼のものでしょう』
『怪我がなくて良かった~。この方をお城に連れて帰って手当てしてあげましょう。でもどうやって運ぶ?衛兵を呼びに行ったとしても待ってる間にまたさっきの狼が戻ってきたら怖いわよね…。』
『大丈夫ですわ、姫様。』
そう言うとイブはその少女を軽々と背中に担ぎ上げた。
私が呆然としていると
『姫様、申し訳ありませんがこの子の荷物は持っていただけませんか?さすがに荷物までは持つことは出来ませんわ』
『え?あ、うん。荷物ね』
あの狼のことが気になるけど、今は助けてくれた少女が優先だ。
私はリュックと剣を拾ってイブの後からお城に向かって歩きだした。
見つけたぞ…。
いい生贄が見つかった。
誰だ…?生…贄…?
誰かの声が聞こえる。
それに、凄く眩し…い…。
そしてまた意識が遠のいていく…。
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