あとがきと予告



 この物語、実は一番最初の構想段階ではもっとコメディ寄りと申しますか、コメディ一辺倒の緩くて軽い物語になる予定でした。真面目で苦労人の勇者と、使えない仲間達。でもそんな彼らを決して見捨てたりしない勇者がどんどん面倒事を背負い込んでいく話。


 ですから、ぼうっとしたお花の妖精の魔法使いと体力ゼロの神官、楽しく歌っているだけの吟遊詩人、凄腕魔術師でもなんでもないただの物知りな賢者──彼らの設定は、彼らを「お荷物」にするために生まれたものでした。仲間が全員後衛職で剣士の勇者が忙しいのに加え、一人一人も役立たずである、と。


 けれどある日、プロットを考えていて気づいたのです。「あれ? この仲間達、案外使えるぞ……?」と。


 そこから大きく物語の方向性が変わりました。ただのギャグから、もう少しちゃんとしたファンタジー寄りにプロットを全部組み直しました。異端審問官の存在が生まれたのもその時で、展開に恋愛要素が追加されたのもこの時です(恋愛については、最初の読者である我が配偶者殿の要望で組み込みました。ハイロが不気味なだけじゃないキャラクターになったのはあなたのおかげです、ありがとう)。


 『シダル』は私の処女作ですが、そういった事情故に「本当に初めて書いた文章」はもう消えてしまっています。プロローグだけはプロットを組む前に書いてあったので、そこそこ大幅に書き直されてしまったのです。最初期の文体をご覧になりたい方は第一話『狩人』をご覧下さい。


 初心者が短編ではなくいきなり百八十話の続きものを書こうと思ったのも馬鹿馬鹿しいかもしれませんが、けれど苦労しただけに良い物語になったと思います。プロットに一年、執筆に一年、それから読み返して矛盾をなくしたりする作業に半年くらい、それを終えてから投稿を始めました。


 ですから先に完結していた『ルヴァルフェンサ』や『魔法陣恐怖症』は『シダル』を完結まで書き終えてから──でもなく、シダルが完結して、十六万字程ある前日譚をもう一本書き上げてから書き始めた物語です。


 その前日譚がどんなものなのか……これは一週間後のお楽しみとさせて下さい。明日からこの続きに番外編を七本連日で投稿しますが、その七本目が次回作の予告編になっています。


 さて、長くなりましたが、改めまして『シダル』に最後までお付き合いいただきありがとうございました。この間抜けで幸福で真剣な旅路を彼らと共にして、たくさん笑っていただけたなら幸いです。番外編と前日譚も、ぜひお楽しみください。





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