ほしを越える青春

 ヒマワリは、会話を広げようと遠山に話しかける。

「はるきは、どうしてここに来たの?」

「昔から、ここの景色を見に来るのが好きなんだ。…特に、嫌な事があった時とかは、ね。」

遠山は柔らかな笑みを浮かべていたが、その中に陰りが見えた。

「はるきは、何か嫌な事があったの?」

「…うん。進路とか、色々ね。」

「そっか…はるきは、これから何をしたいの?」

「…僕、本当は…写真家になりたいんだ。」

「素敵!」

遠山は、ヒマワリの予想外の反応に目を丸くした。

「…そんなこと言ってくれたの、君が初めてだよ。」

「え、なんで?自分のやりたい事が見つかってるって、凄いよ。」

「でも…僕の両親は、僕の夢に反対してるんだ、不確かだからって。…学校でも周りとの温度差があって、自分のやりたい事と今やってる事が乖離してる感じがする。そういう事も、ここに来たら忘れられる気がして。」

遠山はせきを切ったように話した。

「はるきは、周りに優しすぎるよ。」

「え…」

「『和』は、確かに大事かもしれない。でも、はるきは自分を殺しちゃってる。私は、よく自己中だって言われるけど…はるきも、もっと自己中になっていいと思う。心の中のはるきが泣いてる。」

「君は…本当に花のヒマワリみたいだね。」

「へ?」

突然の話題転換に、ヒマワリは驚いた。

「ヒマワリは、太陽の方向を向いて咲くんだ。いや、むしろ君は太陽みたいなひとだね。」

真夏の暑さのせいではなく、ヒマワリは顔の下からじりじりと熱が出る感覚に襲われた。

(なんだこれ…もしかして、薬がきれはじめた…?)

ヒマワリは焦って薬が入っているポッケに手を伸ばしたが、同じポッケに入っていた専用機械のスイッチを誤って押してしまった。すると、みるみる元の悪魔のような姿に戻ってしまった。

姿を見られた場合は、見た者の記憶を消去せねばならない。

 ヒマワリは、急に胸が苦しくなった。

「きれいだ」

遠山が呟いた。景色ではなく、本来の姿のヒマワリを見て。

ヒマワリは、涙を浮かべながら顔を歪め、自分と会った記憶を消去し、飛んで行った。


 しばらくして、記憶を消された遠山が我に帰った時。彼の視界は、絵具で描いたような夕焼け空で埋まっていた。家に帰ろうとすると、足元に黒い羽があるのに気付いた。手に取って見てみると、遠山には何故か特別にきれいなものに思えた。夕焼け色に染まった街を一瞥した彼の目は、黒曜石のように輝きに満ちていた。

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ほし越えるヒマワリ @miyabi-cinnamon

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