陽瓚2  陽給事誄上   

貞不常祐 義有必甄

 忠貞の徒に幸があるとは限らぬが、

 義ある振る舞いは、必ず示される。


處父勤君 怨在登賢

苫夷致果 題子行間

 春秋しゅんじゅうの昔にあった陽処父ようしょほは、

 しん文公ぶんこうの治世下で

 賢人を取り立てたところ、

 つまらぬものに殺された。

 時が下り、春秋の末、

 の官僚の苫越せんえつ

 陽州ようしゅうで大勝を果たしたことより、

 子を苫陽州せんようしゅうと名付けた。


忠壯之烈 宜自爾先

舊勳雖廢 邑氏遂傳

 陽処父や苫越を祖とする、そなたよ。

 彼らの勲功ははるか歴史のかなただが、

 その業績は、そなたもまた

 引き継いでいたところ。



惟邑及氏 自溫徂陽

狐續既降 晉族弗昌

之子之生 立績宋皇

 そなたの祖はおん県よりよう県に移った。

 その一族が晋の世に盛んであったとは、

 決して言えるまい。

 しかしそなたの誕生により、

 その功績がそうの世に明らかとなった。


拳猛沈毅 溫敏肅良

如彼竹柏 負雪懷霜

如彼騑駟 配服驂衡

 勇猛なれど冷静、温厚にして俊敏。

 かつ、慎ましきそなたよ。

 竹や柏が雪や霜にも負けず、

 馬たちが戦車を見事に引くさまは、

 まこと、そなたのようではないか。


邊兵喪律 王略未恢

函陝堙阻 瀍洛蒿萊

朔馬東騖 胡風南埃

路無歸轊 野有委骸

帝圖斯艱 簡兵授才

寔命陽子 佐師危臺

 武帝陛下が崩ぜられてより、

 にわかに混沌としだした国境地域。

 函谷関かんこくかんきょうのあたりがきな臭くなり、

 瀍水てんすい洛水らくすいがざわめく中、

 北魏ほくぎの騎馬隊が東に攻め来、

 胡族の脅威が南方にも伝わり来た。

 野原や道端には、満足に葬られぬ

 人々の遺骸が転がるありさま。

 建康けんこうはこの苦難に際し、

 選りすぐった精兵を鍛え上げ、

 そして陽殿、そなたに命じた。

 王景度おうけいど殿を助け、

 滑臺かつだいの危機を乗り越えられよと。


憬彼危臺 在滑之坰

周衛是交 鄭翟是爭

昔惟華國 今實邊亭

憑巘結關 負河縈城

 ああ、はるかなる滑臺。

 かつの地のはずれにある砦。

 かつてもしゅうえいとがここで交わり、

 また周王が派遣した翟人てきじんが、

 ていと争ったこともある。

 昔はそこも我らの地であったが、

 いまでは辺境の砦である。

 山や川の地勢に合わせて、

 かの砦は設けられた。


金柝夜擊 和門晝扃

料敵厭難 時惟陽生

 夜にドラを鳴らして出撃、侵略者を攻め、

 昼には門を閉ざし、敵の攻めをしのいだ。

 敵の様子を、その戦ぶりを見極め、

 凌いでこられたのは、そう、陽殿である。




貞不常祐,義有必甄。處父勤君,怨在登賢。

苫夷致果,題子行間。忠壯之烈,宜自爾先。

舊勳雖廢,邑氏遂傳。

惟邑及氏,自溫徂陽。狐續既降,晉族弗昌。

之子之生,立績宋皇。拳猛沈毅,溫敏肅良。

如彼竹柏,負雪懷霜。如彼騑駟,配服驂衡。


邊兵喪律,王略未恢。函陝堙阻,瀍洛蒿萊。

朔馬東騖,胡風南埃。路無歸轊,野有委骸。

帝圖斯艱,簡兵授才。寔命陽子,佐師危臺。

憬彼危臺,在滑之坰。周衛是交,鄭翟是爭。

昔惟華國,今實邊亭。憑巘結關,負河縈城。

金柝夜擊,和門晝扃。料敵厭難,時惟陽生。


(文選57-2_文学)




陽氏の祖先の話が出てくるわけですが、えー、この人前燕に仕えてた陽氏に繋がったりするんじゃないの? まぁ晋宋的にはその辺の人物とのつながりでは下手に称揚できないのかな。「晋の時代には無名」でごまかした感もある。


それにしても、ここに下手に王景度の名前を挙げるわけにもいかんのですよね。真っ先に逃げた人物だものな。となると、この誄文ってほぼまるまる王景度への糾弾文にもなってる感じじゃないすかね? 間接的に。そう考えるとちょっと面白い。

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