劉凝之1 シンプルな暮らし

劉凝之りゅうぎょうし、字は志安しあん。幼名は長年ちょうねん

南郡なんぐん枝江県しこうけんの人だ。

父は劉期公りゅうきこう衡陽こうよう太守。

兄は劉盛公りゅうせいこう。出仕を良しとしなかった。

兄と同じく、劉凝之もまた隠遁志向。

老萊子ろうらいし嚴光げんこうといった隠者の振る舞いを愛し、

相続した家財はすべて弟や兄の子に与え、

自らは屋外に小屋を建て、

自力で手に入れた食料以外は口にしなかった。


荊州けいしゅう府より派遣されていた監督者は

劉凝之のこの振舞いが

徳高いものであると称賛。

そのため荊州府より西曹主簿としての招聘が、

三度の礼を交えてなされたが、辞退。

また秀才にも挙げられたが、やはり辞退。


妻は梁州りょうしゅう刺史の郭銓かくせんの娘であった。

刺史の娘の嫁入りである。

当然豪華な贈答品もあった。

が、劉凝之、それらをすべて親戚縁者に

分け与えてしまった。


妻の郭氏もまた豪勢な暮らしを好まず、

夫婦して慎ましい生活で満ち足りていた。

ふたりは夫妻は共に粗末な車に乗ってでかけ、

市場で買い物や物々交換をしたが、

自分たちが使うことがなさそうなものは

どんどん人に分け与えた。


そんな暮らしをする夫婦は、

なぜか地元からクレームを受けた。

それで年三回かけての罰金を

課されたようなのだが、

そのための財貨も、人に求められたら

分け与えてしまったという。


ある人が劉凝之の履く靴を見て、

なくしてしまった自分の靴だと

勘違いした。笑って言う。


「おいおい、俺のぼろ靴を

 拾って履いちゃったのかよ。

 したかないな、うちにある

 新しいやつをやるから」


ボロボロなのは、劉凝之がもともと

履きつぶしていたからだ。

しかし、その傷みぶりを見て

まさか、と思ったようなのだ。


が、のちに田んぼのあたりから、

その人が落とした靴が見つかる。

なのでその靴を返却し、

再び受け取ることはなかった。




劉凝之字志安,小名長年,南郡枝江人也。父期公,衡陽太守,兄盛公,髙尚不仕。凝之慕老萊、嚴子陵爲人,推家財與弟及兄子,立屋於野外,非其力不食,州里重其德行。州三禮辟西曹主簿,舉秀才,不就。妻梁州刺史郭銓女也,遣送豐麗,凝之悉散之親屬。妻亦能不慕榮華,與凝之共安儉苦。夫妻共乘薄笨車,出市買易,周用之外,輒以施人。爲邨里所誣,一年三輸公調,求輒與之。有人嘗認其所著屐,笑曰:「僕著之已敗,令家中覔新者備君也。」此人後田中得所失屐,送還之,不肯復取。


劉凝之、字は志安、小名は長年。南郡の枝江の人なり。父は期公、衡陽太守。兄は盛公、髙尚にして仕えず。凝之は老萊、嚴子陵が爲人を慕い、家財を推し弟及び兄が子に與え、屋を野外に立て、其の力に非ざれば食さず、州里は其の德行を重んず。州は三禮し西曹主簿に辟し、秀才に舉ぐれど、就かず。妻は梁州刺史の郭銓の女にして、遣ぜるに豐麗なる送をなせど、凝之は悉く之を親屬に散ず。妻も亦た能く榮華を慕わず、凝之と共に儉苦に安んず。夫妻は共に薄笨車に乘り、市に出で買易し、周用の外は、輒ち以て人に施す。邨里に誣さる所と爲り、一年に公調を三たび輸せど、求むらば輒ち之を與う。嘗て其の著けたる所の屐を認め,笑いて:「僕が之を著すに已に敗れたらば、家中に令し新なるを君に備えたるを覔むなり」と曰いたる人の有らば、此の人の後に田中にて失いたる所の屐を得たらば、送りて之を還じ、復た取るを肯んぜず。


(宋書93-17_棲逸)




ラストがよーわからんですね。調べてみるとのちの人がこれがなんかすごいことだったと語っているようなのだが、どうにも意味が取り切れないためよくわからない。まぁやむなし。


老萊子

「親に孝を尽くし、七〇歳でなお五色の模様のある衣を着、嬰児のしぐさをして親に歳を忘れさせ、喜ばせたという。」byコトバンク。お、おう……。


嚴光

光武帝劉秀のフレンズだけど仕官しなかった人。


うんまぁなんというか「偉い人に誘われたけど」って冠言葉がいちいちつくのがどうにもね。この人も太守輩出したり刺史の娘を嫁にもらうような家柄なわけで、そんな家柄の人に隠者になられたって「はあ、さいでらっしゃいますか」という感じにしかならんのよなあ。

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