徐湛之2 劉裕長女・劉興弟

徐湛之じょたんしの母は劉裕りゅうゆうの長女、劉興弟りゅうこうてい

めっちゃえらい。

貧乏な時代の劉裕を知っている、

数少ない子供だというのも大きいだろう。

なので劉義隆りゅうぎりゅうよりリスペクトされていた。

劉氏にまつわるあれこれについては、

大小かかわらず、ほぼ劉興弟に

お伺いを立ててから、といった具合だ。


謝晦しゃかい征伐のために

劉義隆が出征しようとしたとき、

劉興弟を城内に招き、

六宮、要するに皇后をはじめとした

やんごとなき姫君たちの住まう場所の

総監督をお願いした。


すると劉興弟、このお願いが

気に食わなかったのか、号泣。

劉義隆、めっちゃイラっとした。



劉裕がいまだ兵卒だったころ、

めっちゃ貧乏だった。

なので劉裕、新洲しんしゅうに出向くと、

荻を伐採する。


肌着、上着はいずれも

ズタボロなものであったが、

それらはすべて劉裕の妻、臧愛親ぞうあいしん

手ずから作ったものであった。


劉裕、立身出世を遂げると、

それらのぼろ布を劉興弟に下げ渡す。

そして言う。


「のちのち、おごり高ぶって

 節制しようともせん奴が現れたら、

 この服をそいつに示してやれ」



徐湛之と言えば劉義康りゅうぎこうに寵愛されていた。

となると、いわゆる劉義康擁立派、

例えば劉湛りゅうたんあたりとの接点も大きい。

やがて劉湛が逮捕されると、

徐湛之も大きく関与していたことが発覚。


劉義隆、大激怒である。

徐湛之も併せて処刑、

という運びになりつつあった。


恐れおののく徐湛之。

しかし解決策を見つけ出せそうにない。

なので母、劉興弟に泣きつく。


すると劉興弟、

すぐさま劉義隆のもとに駆け付けた。

そして玉座の劉義隆の前に

身を投げ出し、号泣。

公的な場であったにもかかわらず、

臣下としての礼を取る気配はない。


そして絹の袋から

劉裕が着ていた例の服を取り出し、

劉義隆の前に放り投げる。

……扱い、扱いィー!


「我らが劉氏は、元は貧賤の身。

 これを見なさい、私の母上が、

 おまえのお父上のために

 手ずからお作りになったものよ。


 すっかり贅沢に慣れたおまえは、

 一族で手を取り合うように、という

 父上のお言葉も忘れ、

 私の子供たちをも

 殺そうというのですね!」


その衣服を見れば、劉義隆としても

「父親のことを思い出し」

哭泣するしかない。


こうして徐湛之は赦免された。




會稽公主身居長嫡,為太祖所禮,家事大小,必咨而後行。西征謝晦,使公主留止臺內,總攝六宮。忽有不得意,輒號哭,上甚憚之。初,高祖微時,貧陋過甚,嘗自往新洲伐荻,有納布衫襖等衣,皆敬皇后手自作,高祖既貴,以此衣付公主,曰:「後世若有驕奢不節者,可以此衣示之。」湛之為大將軍彭城王義康所愛,與劉湛等頗相附協。及劉湛得罪,事連湛之,太祖大怒,將致大辟。湛之憂懼無計,以告公主。公主即日入宮,既見太祖,因號哭下牀,不復施臣妾之禮。以錦囊盛高祖納衣,擲地以示上曰:「汝家本貧賤,此是我母為汝父作此納衣。今日有一頓飽食,便欲殘害我兒子!」上亦號哭,湛之由此得全也。


會稽公主が身は長嫡に居し、太祖に禮さる所為れば、家事の大小は必ず咨りて後に行う。謝晦を西征せるに、公主をして臺內に留止し六宮を總攝せしむ。忽にして意を得ざる有らば、輒ち號哭し、上は甚だ之を憚る。初、高祖の微時に、貧陋は過甚にして、嘗て自ら新洲に往きて荻を伐り、布衫襖らの衣を納む有らば、皆な敬皇后が手ずから自作したれば、高祖の既に貴なるに、此の衣を以て公主に付し、曰く:「後世に若し驕奢不節なる者有らば、此の衣を以て之に示すべし」と。湛之は大將軍の彭城王の義康に愛さる所為れば、劉湛らと頗る相い附協す。劉湛の罪を得るに及び、事は湛之に連なり、太祖は大怒し、將に大辟を致さんとす。湛之は憂懼し計無くば、以て公主に告ぐ。公主は即日に宮に入り、既に太祖に見え、因りて下牀にて號哭し、復た臣妾の禮を施さず。錦囊を以て高祖が納衣を盛り、地に擲ちて以て上に示して曰く:「汝が家は本は貧賤なり、此れや是れ、我が母の汝が父が為に此の納衣を作したり。今日、一に飽食に頓ぜる有りて、便ち我が兒子を殘害せるを欲さんか!」と。上は亦た號哭し、湛之は此の由にて全きを得たるなり。


(宋書71-3_賢媛)




この話、なんか改めて読んだら劉興弟の振る舞いが微妙にやばいですね……投げんな。わりと汚物扱いしてねえかお前。ちなみに劉興弟の生年は書かれていません。なのでどのくらい劉義隆と離れていたかは不明。中国の wiki とかだと劉裕が成人した 383 年を生年にしてる人もいました。仮にそれを真としてみると 24 歳差になって、いやまぁ、それはそれで楽しいんですが……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る