劉湛2  礼以て処さざれば

劉裕りゅうゆうが皇帝となったとき、

四男の劉義康りゅうぎこうは冠軍將軍、豫州よしゅう刺史として、

壽陽じゅように留まっていた。

劉湛りゅうたんはその副官兼梁郡りょうぐん太守であった。

とはいえ劉義康はまだ幼く、

自ら指揮を取ることはできない。

なので劉湛が実務をとっていた。


のちに劉義康は右將軍に昇進。

劉湛もまたその副官となる。

さらに豫州が南北に分割、

劉義康の任地が南豫州となると、

梁郡が北豫州に属する関係から、

劉湛は歷陽れきよう太守に改領された。


その統治は、一言で言えば、激烈。

官吏が百錢以上の私服を肥やせば、

例外なく処刑した。

この措置に怯えないものはなかったが、

一応領内は粛然とした。


劉裕の次男、劉義真りゅうぎしんが南豫州に出向。

劉湛はその副官にスライドする。


まもなく劉裕が死亡。

だが劉義真に、喪中にも関わらず

豪華な食事を取ろうとする。

いやいやだめでしょうあんた、

劉湛はそれを禁止しようとしたが、

無駄だった。


劉義真、劉湛にかくれて料理を作らせる。

魚や肉、珍味がてんこ盛りだ。

そしてそれらを書斎に持ち込み、

厨房の仕切りを立てた。


書斎に劉湛が入ってきた、そのとき。

劉義真、酒を盃に注がせ、

またクルマエビを炙らせる。

たちまち、いい香りが漂ったことだろう。


それを嗅ぎ取り、劉湛、きっと言う。


「ありえんにも程がございますぞ!」


対する劉義真はへらへらしたものだ。


「朝は寒かろう?

 一献の酒で暖を取ることの何が悪い。


 そも、長史どの。

 我らは同じ主を頂くもの同士だ。

 ならば、ともに楽しめんものかね?」


劉湛のもとに酒が運ばれた。

それを見るなり、劉湛、立ち上がる。


「この場にあって

 礼に基づいて振舞えぬのであれば、

 礼に基づいてあなた様と接する必要も

 ございますまいな!」




高祖入受晉命,以第四子義康為冠軍將軍、豫州刺史,留鎮壽陽。以湛為長史、梁郡太守。義康弱年未親政,府州軍事悉委湛。府進號右將軍,仍隨府轉。義康以本號徙為南豫州,湛改領歷陽太守。為人剛嚴用法,姦吏犯贓百錢以上,皆殺之,自下莫不震肅。廬陵王義真出為車騎將軍、南豫州刺史,湛又為長史,太守如故。義真時居高祖憂,使帳下備膳,湛禁之,義真乃使左右索魚肉珍羞,於齋內別立厨帳。會湛入,因命臑酒炙車螯,湛正色曰:「公當今不宜有此設。」義真曰:「旦甚寒,一盌酒亦何傷。長史事同一家,望不為異。」酒既至,湛因起曰:「既不能以禮自處,又不能以禮處人。」


高祖の入りて晉が命を受くるに、第四子の義康を以て冠軍將軍、豫州刺史と為し、壽陽に留鎮せしむ。湛を以て長史、梁郡太守と為す。義康は弱年にして未だ親政せざらば、府州の軍事は悉く湛に委ねらる。府の右將軍に進號せるに、仍ち隨いて府に轉ず。義康は本號を以て徙りて南豫州為れば、湛は歷陽太守に改領さる。為人は剛嚴に法を用い、姦吏の百錢以上を贓せるを犯さば、皆な之を殺し、自下に震肅せざる莫し。廬陵王の義真が出でて車騎將軍、南豫州刺史と為るに、湛は又た長史と為り、太守は故の如し。義真の時に高祖が憂に居し、帳下をして膳を備わしめんとすれば、湛は之を禁ぜるも、義真は乃ち左右をして魚肉珍羞を索ましめ、齋內にて別に厨帳を立たしむ。湛の入りたるに會し、因りて酒を臑し車螯を炙させしめんと命ざば、湛は色を正して曰く:「公は當に今、宜しく此を設くる有りたるべからじ」と。義真は曰く:「旦は甚だ寒かれば、一盌の酒にて亦た何ぞ傷まん。長史は同一の家に事えたれば、望むらくは異と為さざらんことを」と。酒の既に至れるに、湛は因りて起ちて曰く:「既に禮を以て自ら處す能わざれば、又た禮を以て人に處す能わじ」と。


(宋書69-2_直剛)




うーん、劉義符や劉義真については、どうしても「彼らを差し置いて劉義隆が即位するだけの理由があった」っつーお題目の犠牲になった要素も少なくなさそうなのがなぁ。まぁそんなこと言い出したら史書の記述なんざ何一つ信じらんなくなっちゃうわけですが。


それにしても劉湛さんの例に関する発言はうまいよな。何氏語林にも載ってんじゃね?



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