謝霊運7  撰征賦3   

爾乃經雉門 啟浮梁 

眺鍾巖 越查塘

覽永嘉之紊維 尋建武之緝綱

 建康城の雉門を出、浮き橋を開き

 鍾山を眺めながら查塘を越える。

 永嘉の乱によって晋が乱れた

 その形跡を見、建武の年に

 晋が再興したことを思う。


于時

內慢神器 外侮戎狄

君子橫流 庶萌分析

主晉有祀 福祿來格

明兩降覽 三七辭厄

 国内では天子の権威が侮られ、

 外では蛮族に侮られていた。

 結果名士は流浪し、

 ひとびとは散り散りとなった。

 しかし晋王朝が先祖の祭祀を

 絶やすことはなく、幸いが訪れた。

 徳の明らかなみかどが続いて現れ、

 災いは退けられたのである。


元誕德以膺緯 肇回光於陽宅

明思服於下武 興繼代以消逆

 元帝は徳で乱れた世をまとめ、

 帝の居場所に光を取り戻し、

 明帝は先帝の偉業を常に忘れず、

 立派に事業を継ぎ

 逆賊を討ち果たした。


簡文因心以秉道 故沖用而刑廢

孝武捨己以杖賢 亦寧外而治內

觀日化而就損 庶雍熙之可對

 簡文帝は親しみの心によって

 正しい道を行い、そのため

 やわらいだ政治となり

 厳しい刑罰は廃止された。

 孝武帝は己を捨て賢者の策を用い、

 また国外を安らかとして

 国内を治めた。

 日々に治まって行くのを見ては

 身をへりくだらせ、

 民が笑顔で過ごせることを願った。


閔隆安之致寇 傷龜玉之毀碎

 隆安年間に乱が起こったのは

 憂うべき事である。

 国家の秩序が乱れたのは

 悲しきことである。


漏妖凶於滄洲 纏釁難而盈紀

時焉依於晉鄭 國有蹙於百里

 妖賊を東の海に取り逃がしてしまい、

 兵乱は十年以上続いた。

 このときに徐州遷都なども囁かれ、

 くには日に百里ずつ

 縮んで行く有り様であった。


賴英謨之經營 弘兼濟以忘己

主寰內而緩虞 澄海外以漬滓

至如昏祲蔽景 鼎祚傾基

黍離有歎 鴻雁無期

 みかどは優れた大臣を頼り、

 己を忘れての救済を志された。

 国内を落ち着け、心配事を和らげ、

 海外を澄ませて濁りを

 鎮めんとなされたけれど、

 妖気は太陽を覆い隠し、

 玉座の基礎はついに傾き、

 いちど国は亡国の憂き目に遭い、

 救いはこのまま

 現れないかのように思われた。


瞻天命之貞符 秉順動而履機

率駿民之思効 普邦國而同歸

盪積霾之穢氛 啟披陰之光暉

反平陵之杳藹 復七廟之依稀

 このような中にあって劉裕様は

 天命によって使命を授けられ、

 道理にしたがって行動し

 道を誤ることなく、

 力を尽くさんとするひとびとを率い、

 国内を同じ目的のもとにまとまた。

 かくて厚く積もった汚れを洗い流し、

 陰気を押し流して輝きを招き、

 深いもやにおおわれていた

 帝の墓を取り戻し、

 更には遥かなる存在であった

 漢以来の帝の陵墓を

 奪還したのであった。


務役簡而農勸 每勞賞而忠甄

燮時雍於祖宗 布乂安於海甸

 民の労役は軽くなって

 農業が推奨され、

 天子は太平を告げて

 祖宗をやわらげ、

 平安を天下に布いた。


掃逋醜於漢渚 滌僭逆於岷山

覊巢處於西木 引鼻飲於源淵

惠要襋而思韙 援冠弁而來虔

 逆賊らは漢水域や、

 蜀の地からも追い払われた。

 また西方の荒馬については、

 その巣窟に繋ぎ止めて

 西方の木におらせ、

 鼻を引っ張って河原で

 清き水を飲ませた。

 そうして中華の衣装を着させて

 ものの道理を教え込み、

 冠をつけさせ朝廷に参上させた。




爾乃經雉門,啟浮梁,眺鍾巖,越查塘。覽永嘉之紊維,尋建武之緝綱。于時內慢神器,外侮戎狄。君子橫流,庶萌分析。主晉有祀,福祿來格。明兩降覽,三七辭厄。 元誕德以膺緯,肇回光於陽宅。明思服於下武,興繼代以消逆。簡文因心以秉道,故沖用而刑廢。孝武捨己以杖賢,亦寧外而治內。觀日化而就損,庶雍熙之可對。閔隆安之致寇,傷龜玉之毀碎。漏妖凶於滄洲,纏釁難而盈紀。時焉依於晉鄭,國有蹙於百里。

賴英謨之經營,弘兼濟以忘己。主寰內而緩虞,澄海外以漬滓。至如昏祲蔽景,鼎祚傾基。黍離有歎,鴻雁無期。瞻天命之貞符,秉順動而履機。率駿民之思効,普邦國而同歸。盪積霾之穢氛,啟披陰之光暉。反平陵之杳藹,復七廟之依稀。務役簡而農勸,每勞賞而忠甄。燮時雍於祖宗,布乂安於海甸。掃逋醜於漢渚,滌僭逆於岷山。覊巢處於西木,引鼻飲於源淵。惠要襋而思韙,援冠弁而來虔。


(宋書67-5_文学)




明帝の次に一気に簡文に飛ぶのはあれですかね、成帝以降に微妙に蓋をし、「幼帝乱立期は簡文さまのサポート故に栄えることができたのだ」みたいなニュアンスを持たせた感じでしょうか。まぁ簡文直系の皇帝を戴いている以上、簡文の正統性は称揚しないとどうしようもないしね、仕方ないね。


「覊巢處於西木」については、これ注釈きちんと読めてなかったな。たぶん乞伏熾磐とか沮渠蒙遜、あるいは吐谷渾とかのことなんでしょうね。

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