謝霊運6  撰征賦2   

坤寄通於四瀆 乾假照於三辰

水潤土以顯比 火炎天而同人

 陰の気は四つの大河によって

 天下を通じさせ、

 陽の気は太陽や月や星などを通じ

 天下を照らしている。

 水は土を潤して、火は天に燃え上がる。


惟上相之叡哲 當草昧而經綸

總九流以貞觀 協五才而平分

 賢明なるかな、劉裕様。

 公はこの混乱した状態にあって

 国内を取りまとめられ、

 人々の動きを的確に見極めらえ、

 多くの才を見事取りまとめられた。


時來之機 悟先於介石

納隍之誡 一援於生民

 わずかなチャンスをも逃さず、

 堅実な展開の中であっても、

 過たず先を読み、

 決して人民を苦しみのただ中に

 陥れてはならぬと自らを戒められ、

 必ず救いの手をさしのべられる。


龜筮允臧 人鬼同情

順天行誅 司典詳刑

樹牙選徒 秉鉞抗旍

 占いの結果は善。

 人も先祖の霊も思いを同じくした。

 かくて劉裕様は天意にしたがって

 討伐を行い、決まりにしたがって

 刑罰を厳密に施行。

 大将軍の旗をたて兵士を選抜、

 武器を取り旗を掲げられた。


弧矢罄楚孝之心智

戈棘單吳子之精霊

 武器をもって楚の孝烈王の知をつくし、

 矛をもって呉子の精霊をつくした。


迅三翼以魚麗 襄兩服以雁逝

陣未列於都甸 威已振於秦薊

灑嚴霜於渭城 被和風於洛汭

就終古以比猷 考墳冊而莫契

 三枚帆の船を魚鱗に並べ、

 戦車を雁行で進める。

 まだ敵の都の郊外に

 布陣してもいないのに、

 その威勢は関中に振るった。

 長安に厳しい霜のごとき武威を、

 洛陽の地を穏やかな風でおおった。

 その策謀の源をどう古に求めようか?

 ありえなかったのではあるまいか?



昔西怨於東徂 今北伐而南悲

豈朝野之恒情 動萬乘之幽思

歌零雨於豳風 興採薇於周詩

 昔は東に行けば

 西の人が恨んだものだが、

 今は北伐に当たって

 南の人が悲しんでいる次第。

 その事は朝野の人が

 思っているだけではなく、

 天子の深い思いまでも動かした。

 天子は詩経豳風「東山」を歌われ、

 また採薇の歌を歌われる。

 軍役の苦しみ、亡国の悲しみに、

 陛下は心痛めておられたのである。


慶金墉之凱定 眷戎車之遷時

佇千里而感遠 涉弦望而懷期

 洛陽入城を喜ばれながらも、

 遠征が長期にわたることを

 おもんばかられた。

 千里の彼方の遠きを感じ入り、

 三日月が満月になるまで

 帰還を望んでおられる。


詔微臣以勞問 奉王命於河湄

夕飲餞以俶裝 旦出宿而言辭

 そこで私に討伐軍の慰問を

 お命じになられた。

 かくて私は黄河のほとりまで

 王命を奉じた次第である。

 私は夕方に送別の宴を受け、

 翌朝に出立した。


歲既晏而繁慮 日將邁而戀乖

闕敬恭於桑梓 謝履長於庭階

 年はすでにくれて思うこと多く、

 日はまさに過ぎ行かんとし、

 別れが辛い。

 郷里の父母の墓参りを

 することも許されず、

 この冬至の日には

 庭先で父母への祭祀をなした。


冒沈雲之晻藹 迎素雪之紛霏

凌結湍而凝清 風矜籟以揚哀

情在本而易阜 物雖末而難懷

 厚く垂れ込める雲をおかし、

 降りしきる雪を顔に受けて進む。

 雪は渓流に降りしきり、

 風はひょうひょうと

 悲しき声をあげている。

 心情は根本に存在するものであるが

 見出しやすく、それに引き換え

 物事は末なるものであるけれども

 予測のしづらいものである。


眷余勤以就路 苦憂來其城頹

 思えば私は苦労して旅を続けており、

 その憂苦のほどは

 城すら崩れるものである。




坤寄通於四瀆,乾假照於三辰。水潤土以顯比,火炎天而同人。惟上相之叡哲,當草昧而經綸。總九流以貞觀,協五才而平分。時來之機,悟先於介石,納隍之誡,一援於生民。龜筮允臧,人鬼同情。順天行誅,司典詳刑。樹牙選徒,秉鉞抗旍。弧矢罄楚孝之心智,戈棘單吳子之精霊。迅三翼以魚麗,襄兩服以雁逝。陣未列於都甸,威已振於秦薊。灑嚴霜於渭城,被和風於洛汭。就終古以比猷,考墳冊而莫契。

昔西怨於東徂,今北伐而南悲。豈朝野之恒情,動萬乘之幽思。歌零雨於豳風,興採薇於周詩。慶金墉之凱定,眷戎車之遷時。佇千里而感遠,涉弦望而懷期。詔微臣以勞問,奉王命於河湄。夕飲餞以俶裝,旦出宿而言辭。歲既晏而繁慮,日將邁而戀乖。闕敬恭於桑梓,謝履長於庭階。冒沈雲之晻藹,迎素雪之紛霏。凌結湍而凝清,風矜籟以揚哀。情在本而易阜,物雖末而難懷。眷余勤以就路,苦憂來其城頹。


(宋書67-6_文学)




劉裕の北伐、及びそれの成功。軍旅の労苦を思う、安帝の心遣い。その為に派遣されることになった謝霊運。しかしこのひとの描写力やばやばのやばたんね……。

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