王曇首1 ただ書を取る  

王曇首おうどんしゅは琅邪郡臨沂県の人。

王弘おうこうの一番下の弟だ。

幼いころから人々より尊敬を集めていた。

著作郎に任じられたが、辞退した。


貨殖に邁進していた父、王珣おうしゅんが死ぬと、

多くの財産が残される。

王弘が他の兄弟に全て分配した際、

王曇首が手にしたのは書物のみだった。


やがて司馬徳文しばとくぶんの大司馬府に所属、

洛陽らくようの歴代晋帝陵修復事業に参加。


この頃、はとこの王球おうきゅうとともに

劉裕りゅうゆうのもとに訪問した。

するとそこには謝晦しゃかいもいた。

劉裕、謝晦に向けて言う。


「彼らはすでに名門にして

 多くの徳を備えているにもかかわらず、

 こうして軍旅に参加してくれたのだ」


王曇首はこれに答える。


「劉裕さまの神武に

 お導きいただけたからこそ、

 懦弱者でも志を果たせたに過ぎませぬ」


ふふ、と謝晦がコメントした。


「仁者は、また勇気をも

 備えていらっしゃるのですね」


このやり取りに劉裕は喜んだ。

えっマジ? めっちゃ怖いんだけど。


劉裕が彭城ほうじょうにまで戻ったところで、

孔靖こうせいの引退に伴う送別の宴が

戲馬台ぎばだいにて大々的に執り行われた。

参加者はめいめい詩賦を読むのだが、

その中で、王曇首の完成が最も速い。


劉裕、作品を読むと王弘に手渡す。

 

「弟は、お前に比べてどうだ?」


「これは困りましたな。

 曇首の才覚に並ばれてしまうと、

 我が家が割れてしまうかもしれません」


劉裕、このコメントに爆笑した。


王曇首には鑑識眼と、

それを活用できるだけの知恵があった。

また喜怒哀楽はほぼ顔に出さず、

自宅でも鷹揚に振る舞っていたと言う。


一方で金の玉を手に取ろうとはせず、

自宅の女性たちにも

きらびやかな装いを認めなかった。

また、国からの俸給以外の財産を

抱えることは一切なく、

人びとからの贈り物も、全て断っていた。




王曇首,琅邪臨沂人,太保弘少弟也。幼有業尚,除著作郎,不就。兄弟分財,曇首唯取圖書而已。辟琅邪王大司馬屬,從府公修復洛陽園陵。與從弟球俱詣高祖,時謝晦在坐,高祖曰:「此君並膏粱盛德,乃能屈志戎旅。」曇首答曰:「既從神武之師,自使懦夫有立志。」晦曰:「仁者果有勇。」高祖悅。行至彭城,高祖大會戲馬臺,豫坐者皆賦詩,曇首文先成,高祖覽讀,因問弘曰:「卿弟何如卿?」弘答曰:「若但如民,門戶何寄。」高祖大笑。曇首有識局智度,喜慍不見於色,閨門之內,雍雍如也。手不執金玉,婦女不得為飾玩,自非祿賜所及,一毫不受於人。


王曇首、琅邪の臨沂の人、太保の弘の少弟なり。幼きに業尚有り。著作郎に除せらるも就かず。兄弟の財を分くるに、曇首は唯だ圖書を取りたるのみ。琅邪王大司馬屬に辟され、府公の洛陽が園陵を修復せるに從う。從弟の球と俱に高祖を詣でたるに、時に謝晦が坐に在り、高祖は曰く:「此の君、並べて膏粱盛德なれど、乃ち能く志を屈し戎旅す」と。曇首は答えて曰く:「既に神武の師に從わば、自ら懦夫をして立志有らしめん」と。晦は曰く:「仁者は果して勇有らん」と。高祖は悅ぶ。行きて彭城に至らば、高祖は戲馬臺にて大會し、坐に豫かる者は皆な詩を賦すに、曇首が文は先に成り、高祖は覽讀し、因りて弘に問うて曰く:「卿が弟は卿とで何如?」と。弘は答えて曰く:「若し但だ民に如かば、門戶は何ぞに寄さんか?」と。高祖は大いに笑う。曇首は識局智度を有し、喜慍を色に見せず、閨門の內、雍雍として如かりたるなり。手に金玉を執らず、婦女は飾玩を為すを得たらず。自ら祿賜の及びたる所に非ざれば、一毫にても人より受けず。


(宋書63-7_為人)




謝晦が反旗を翻したときの檄文で王曇首のことを「あの粗忽野郎」的に詰っていたのは、一体どういう由来なんでしょうね。王華を「諸悪の根源」的に言ってたのは、たしかに謝晦目線からならそうなるよねって納得できたのだけれど、現段階ではうまく王曇首の伝とは繋がりません。王弘伝とは繋がってるか。


このあたり、どう展開していくのか。


あと金玉。

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