巻62 東晋来の名族たち6

羊欣1  王献之とのこと 

羊欣、字は敬元。泰山郡南城県の人だ。

曽祖父は羊忱、あの羊祜のいとこの子だ。

徐州刺史にまでなっている。

祖父は羊権、父は羊不疑という。


羊欣は若いころから穏やかで無口。

他者と競おうとはしなかった。

話、笑えば美しく、ふるまいも見事。

広く読書をなし、隸書に長けていた。


381 年、12 歳のとき父が烏程令、

呉と会稽の間くらいの地に赴任すると、

ともに赴任先で暮らすことに。


その隣町、吳興を治めていた、王献之。

書聖王羲之の末っ子にして、

父レベルの書の腕で讃えられた彼は、

羊欣と、その書の腕前を知り、

大層にかわいがった。


ある夏の日、羊欣は烏程県の役所にて

真新しい着物を着て昼寝をしていた。


そこにふらっとやってきた、王献之。

なんと、羊欣の着物に書の落書き。

そして、立ち去る。何本かを仕上げてしまう。


目覚めた羊欣、ファッ!? となる。

明らかにこれは王献之の字。

しかし、ただのいたずら……と言うには

その出来栄えは見事なものだったようだ。


なので羊欣、

ちくしょうやりやがるな、と、

王献之のことを

ますます好きになったそーである。




羊欣字敬元,泰山南城人也。曾祖忱,晉徐州刺史。祖權,黃門郎。父不疑,桂陽太守。欣少靖默,無競於人,美言笑,善容止。汎覽經籍,尤長隸書。不疑初為烏程令,欣時年十二,時王獻之為吳興太守,甚知愛之。獻之嘗夏月入縣,欣著新絹帬晝寢,獻之書帬數幅而去。欣本工書,因此彌善。


羊欣は字を敬元、泰山の南城の人なり。曾祖は忱、晉の徐州刺史。祖は權、黃門郎。父は不疑、桂陽太守。欣は少きより靖默にして、人と競いたる無し。言笑美しく、容止善し。汎く經籍を覽じ、尤も隸書に長ず。不疑の初に烏程令為るに、欣は時に年十二。時に王獻之は吳興太守為りて、甚だ知りて之を愛す。獻之の嘗て夏月に縣に入るに、欣は新しき絹帬に著きて晝に寢たれば、獻之は帬數幅に書し去る。欣は本より書に工みにして、此に因りて彌いよ善し。


(宋書62-1_文学)




王献之

親父が酔っ払って壁にやらかした落書きを消して書き直すとか、そういう茶目っ気が多い。なお親父はその字を見て「下手すぎ! うーんワシ酔いすぎじゃね?」って不満げだったと聞いて凹まされてます。ただこれ晋書にないから、おそらくはゴシップのたぐいですけどね。

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