第281話 本当の彼女

浜辺と宝田と別れて急いで龍安寺の近くまで戻ってきた私たちの目にうつったのは思いもしていなかった一場面だった。


「えっと……そのぉ……あぅぅ……」


そこに居たのは2人──1人は、背の高い外国人の観光客らしき人。


そしてもう1人は、普段の様子からはまったく想像も出来ないくらいに慌てていて、すぐにでも泣き出してしまいそうな顔をした星宮だった。


「ねぇ衣里……あれ、やばくない?」


「多分、道聞かれてるんだろうけど……」


でも、それはおかしい。


星宮はテストの成績は学年一なわけで、もちろん英語だっていつも高得点を取っている。

加えて、いつも表情1つ変えずに学校で生活する様は『ロボットみたい』と形容する人もいたくらいだ。


そんな星宮が、今はどうだろう?


ひどく取り乱して、得意なはずの英語もコミュニケーションの道具として上手く使えていない上に、普段のクールな雰囲気なんてものは一切感じない。


そう思った時、浜辺の言葉を思い出す。


『何か言うまで待ってみて、

それで全部わかるから』


もし今までの星宮に対するイメージが、私たちが勝手に思い込んでいただけのものだとしたら?

もしこれが、本当の星宮だとしたら?


もしそうだったなら、私たちのしていたことは彼女にとって1番傷つくことだったのだとしたら……


そこまで考えた私は──


「とりあえずいこう!」

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