第246話 ちゃんと届いたよ

文化祭実行委員なのに何もやってない。


そんなことに気づいたのは、文化祭3日目だった。


他の文化祭実行委員は、見回りや出店の最優秀賞を決めるために色んなお店を回ったりしていたりもしていたらしいのだが、僕に対しては特に何も指示が出されたりはしてないかったのだ。


朝、家を出る前に姉さんに「僕って実行委員だけど、何かしなくていいの?」と聞いてみても「いいんじゃな〜い?」と、適当にしか答えてくれなかった。


そんな訳で、学校にやってきた。

この文化祭3日目は俗に言う「後夜祭」的なものになっていて僕がやってきたのは夕方4時くらいだったのだのだが……


「あ!やっほー眠り姫くん!」


僕に1番に気づいて駆け寄ってきたのは3年D組の篠木しのぎ先輩。文化祭の実行委員長をしていて、そして僕の天敵でもある。


「眠り姫くん……昨日の叫び、ちゃんと私に届いたよっ……。今日はたくさん愛してあげるから──」


「大丈夫です」


妙に熱っぽい声と表情でそんな事を囁いてくる先輩は、顔を上げた次の瞬間にはニヤニヤとしている。


僕と会った時にはだいたいこれと似たような事を毎回してくる。故に僕の天敵だ。


とは言え、だいぶ慣れてきてはいるんだけど……


「そういえば先輩。僕って実行委員なのに実行委員っぽい仕事何もしてないんですけど……」


そんないつものやり取りを終えて、僕は気になっていたことを尋ねた。


「そりゃあそうだよぉ

眠り姫くんにお仕事なんてさせられないよ?」


「当たり前でしょ?」と言うような表情で答える先輩。

それに僕が、「なんでですか?」と言おうとするのに被せて先輩は続けて言った。


「先生とはゆはゆにも眠り姫くんの話はちゃんと聞いてるよ〜?肉体労働はさせない方がいいって!

それに、心配しなくても残してあるからね♪」


パチ★っと、ウィンクをする先輩に、僕は何となく嫌な予感がした。


「それじゃあ、姫くんは向こうのテントで休んでてね?私は他の子の所に行ってくるね!」


しかし、その「とっておきの仕事」を聞き出す前に先輩はさっさと行ってしまったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る