第221話 借りたい

「えっと、どうしたの姉さん?」


さっきまでお題の紙を持ったまま立ち尽くしていた姉さんは、突然なにか思いついたような顔をすると駆け足で僕達のいる放送席にまでやってきた。


「う〜ん、ちょっと借りたいものがあってぇ……」


わざとらしくモジモジとして、なかなかその先を言わない姉さん。


(そんなことしてると、他の先輩に負けちゃうよ?)


「──実は、さちくんを借りたいんだよねぇ〜

いいかな、心夏ちゃん?」


「え、なんで私に……?」


「だってねぇ〜……

2人だけの時間を邪魔しちゃうわけだし、ね?」


「あっ……

あぅ………」


姉さんの言葉に、何故か顔を赤くする心夏。


(え、今の会話に顔を赤くするような内容あった?

もしかして心夏、僕と一緒にいるの恥ずかしかったりするのかな……?

いやまぁたしかに、こんな男っぽさの欠けらも無い僕と一緒にいるのは恥ずかしいのかも……あっ──)


そんな事を考えていたところで、僕はそれよりももっと大きな問題に気づいてしまった。


その問題というのは……


『お、おい!?今の会話、どういう事だ!?』


『もしかして!宝田さんのあの噂って──!』


『そんな!?浜辺くんは、西新くんとできてるんじゃなかったの!?』


そう、マイクを通じて全体に今の会話が聞こえてしまっていた事だった。


実際は、心夏は僕の事を女友達的な感じにしか思ってないのに今の会話じゃ、傍から見ればもう付き合っている恋人同士のように取られたって仕方がない。


僕はじとっと姉さんを睨むと、姉さんは……


「お姉ちゃんをそんな風には見るのは、感心できないよぉ〜さちくん?

そんなさちくんには……こうだ!」


「ちょっ、ちょっと!姉さん!?」


姉さんは僕の後ろに回り込むと、あっという間に僕をお姫様抱っこにして見せた。


「はーいはい。暴れちゃだーめっ

それじゃあ心夏ちゃん!借りてくね〜」


結局僕は、姉さんにお姫様抱っこされたまま1位でゴールすることになった

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