第218話 頼み

結局、昨日の前日準備で何も出来ないまま迎えた体育祭当日。


もう既にプログラムの3分の1ほどが終わろうとしていたところで、私と葉幸くんはみんなと一緒に応援席で応援──と、言うことも無く、2人で放送席に呼び出されていました。


「悪いな。わざわざ来てもらって」


私たちを待っていたのは3年のもり桃季菜ときな先輩でした。

普段はゆるふわな、女の子っぽい雰囲気の先輩ですが、それに反して男の子っぽい言葉使いが特徴です。


「大丈夫ですよ、桃季菜先輩。

それより、私たちに頼みがあるって言ってましたけど何をしたらいいんですか?」


私が質問すると、桃季菜先輩は申し訳なさそうにしながらこたえてくれました。


「悪いんだが、次の障害物競走の実況を頼まれてくれないか?」


「実況、ですか……?」


「あぁ。実は、障害物競走の実況担当の生徒が突然風邪で休んでしまってな……。

他の放送部の生徒は全員障害物競走に出ることになってたみたいで、代わりの人間を探していたんだ」


私は別に構わないですけど……


「葉幸くんは、いいんですか?」


私の少し後ろで、眠そうにしながら話を聞いていた葉幸くんは、少し大袈裟に大きく頷きます。


そんなに実況やりたいのでしょうか……?


「分かりました。

私たちで良ければ、やらさせてもらいます」


「そうか!助かった!

それじゃあ、私はもうすぐ招集がかかるから行ってくる!

あとは頼んだぞ〜!」


そうして、桃季菜先輩がいなくなったあと、2人っきりの静かな空間になった放送席の中で葉幸くんに話しかけようとした所で私は気づいてしまいました。


「あの、葉幸く……ん…?」


「すぅ……すぅ………」


「立ったまま寝てる……」

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