第98話 わがまま
「もう、勝てないしやる意味ないよ……」
俯いたままそう言葉を返した星梨さん。
声は若干震えています。
「先程から何度も言ってますよね?やってみないと分からないって」
「やったよ、もう十分……」
「そうですね。でもそれでいいんですか?
星梨さんのやりたいようにやれたんですか?」
「やりたい、ように……?」
その言葉で少し顔を上げた星梨さんの瞳は涙でいっぱいでした。
「私は知っていますよ?
星梨さんがバドミントンが大好きだって。部活の時の星梨さんをみれば誰だって分かります」
それは前に1度、放課後に体育館を訪れた時でした。
部活の友達と楽しそうに、それでいて真剣にプレーしている星梨さんの姿をよく覚えています。
「でも、今日の星梨さんは違います。
だって、私はまだ1度も星梨さんの楽しそうな笑顔を見ていませんから」
「まだ、終わってないよ?」
そう言って星梨さんに歩み寄ったのは羽柿くんです。
「僕がバドミントン始めた理由、彩里は知らないよね?」
羽柿くんは優しい表情で、小さく、私の位置からでぎりぎり聞こえるくらいの声で言いました。
「小さい頃、彩里がバドミントンをやっているのをみて、憧れたんだ。
楽しそうに打ってる彩里を見て、僕もあんな風にできるかなって」
「──!?」
勢いよく、顔を上げた星梨さんの頬を涙が流れます。
「だからこれは僕のわがままだけど、いつだって彩里にはあの時みたいに楽しんでプレーして欲しい。
僕は、そうやってプレーしてる彩里を見ていたい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます