第83話

「……知ってるか知らないかで答えるなら知ってるな。形にはなってたが、砂糖入れ過ぎで砂糖の味しかわからなかった」


「わかってないなー、ひろくんは。 マカロニきなこは砂糖入れ過ぎくらいがちょうどいいの」


在処の作ったのは入れ過ぎを軽く通り越していて、子供ながらに糖尿病を心配するレベルだった。二度と味わいたくないどころか、一口目でごちそうさまするほどのヒドさ。

あれを顔色一つ変えずに食していたのだから、こいつの味覚は崩壊してる。


「……食べる前からわかってたけど、やっぱ降旗の勝ちだな」


「食べる前からはわからないでしょっ!? そりゃずーちゃんが料理上手なのは認めてるけどっ!!」


「お前のその自信はなんなんだよ……」


いつだかの料理対決だって惨敗だったくせに、変に負けず嫌いだよな。他人には絶対に負けたくない矜持でもあるかのようだ。

在処の作ったのと違って、降旗の作ったマカロニきなこはパクパク食べられる。何回おかわりしても足りないくらい旨い。


「降旗、在処が喧しかったらいつでも追い出してくれていいぞ。俺が許す」


「どうしてひろくんがそれを許すのよ。ひろくんには関係ないでしょ」


「いやいや、関係あるだろ。降旗と俺の仲をなめるなよ」


「自信たっぷりに言い切ってるところ悪いんだけど、そんな大層な仲には思えないんだよね。ありかからしたらひろくんは、ずーちゃんに年中食べ物を恵んでもらってる物乞いにしか見えないし」


「ちょっと待て。……物乞いは言葉が過ぎるぞ」


誰が物乞いだ、誰が……——。


と思ったが、年中食べ物を恵んでもらってるのは事実なので、少しはそれに近い存在なのかもしれない。

……だとしても、比喩する言葉が悪過ぎだけどな。


「博也は味見係。自分で味を確認するだけじゃわからない発見が、他の誰かが感想を言ってくれることで見つかったりするから。あと、単なる話し相手」


「さすがは降旗さん。俺の役割をきちんとわかっていらっしゃる」


「まあ、でも……博也って、語彙力不足だから、ほとんど「うまい」しか言ってくれないんだけど」


「やべぇ……俺全然降旗の役に立ってねぇ……」


降旗が言うには話し相手としては役に立ってるっぽいが、話す相手なんて俺以外に山ほどいるだろうし……なんとも微妙なところだ。


「ぷぷっ。ひろくんっていかにも語彙力不足っぽいもんね。勉強とか碌にしてなさそうだし」


勉強に関しちゃお互い様だと思うけどな。

在処なんか俺以上に勉強嫌いだろ。

よくここの普通科に入学できたもんだと驚いてるくらいだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る