第84話

「俺の頭の悪さを嘲弄する暇があるなら、自分の家族の揉め事を解決する方法でも考えてたほうが有意義だとは思わないか? あの人が仕事辞めるのなんて今回に限った出来事じゃないだろ。うちの親から何度その話を聞かされたことか……」


何年か会っていなくても、在処達いとこ家族の近況はちょくちょく耳に入ってきてはいた。

特段気になる情報でもないし、ほぼ聞き流していたんだが、在処の父親(のりおくん)が仕事を辞めたり、働き口はあるがほとんど出勤していなかったりといった内容はさすがに記憶していた。

主に祖母(のりおくんの母親)が俺の親にいらんことをいちいちしゃべるから、いつのまにか俺にまで伝播するんだ。

別に知りたくもないのに。

それを知ってどうしろと?

生活が大変だから金よこせってか。


「その話は忘れようとしてたのにっ……!!嫌なこと蒸し返そうとしないでよ……」


「在処ちゃん、蒸し返すの使い方多分間違えてる」


「お前が苦悩するのも無理はないが、いつまでも降旗のとこに世話になるのもな。のりおくんに再就職先を探すよう在処が頼んでみるってのはどうだ?」


「無駄……ありかが言ったってのりおくんは聞く耳持たない」


「どうしてだよ。よく言うよな、父親にとって娘は可愛くてしょうがない存在だとかなんとかって」


「ありか、のりおくんに溺愛された記憶なんてないよ」


「いきなり悲しいこと言うなよ……」


まさかそんな悲観的な言葉が在処から飛び出してくるとは……、どう反応したらいいかわからなくなるじゃねぇか。

まあ、確かに……在処があの人に優しげな笑みを向けられる場面など一度たりとも見たことがないかもしれない。俺が覚えている限りでは……。

俺、どうもあの人鬼門なんだよな。

目つき鋭いし、よく金髪に染めるし、髪のついでに髭まで金色に染めてるし、タバコ立て続けに吸うし、言葉遣い汚いし……、悪く言うなら見た目がそこらの不良やヤンキーにしか見えない。まったく良い印象が無い。


「だって、本当のことだし」


「本当のことだとしても、そんな暗い話は聞きたくないぞ。メシがマズくなる」


在処のことが不憫に思える瞬間が到来するなんてな……。俺は夢でも見てるのか……?


「のりおくんに訴えかけるのが望み薄そうなら、残るはひろみちゃんってことになるな。

あー……、でも、こっちもダメそうなんだったか」


「さっき言ったとおりよ……二人とも、ありかの気持ちなんてどうだっていいんだ……」


八方塞がりってやつだな。

父親も母親も娘の話を聞こうとしないんじゃ、説得しようにも不可能だ。

同じ話はこれまで嫌という程聞かされてきたが、結局あの二人は離婚や別居などせず、なんとか今日まで乗り切ってきた。

今回も同じような結末を迎えると信じたいが、果たしてどうなることやら……。





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