第81話
「…………はっ!?」
「やっと起きたか」
隣の机で眠っていた杉並が、ガバッと上半身を持ち上げ起床した。
授業開始五分前にしてようやくの覚醒だった。
なにやら周りをキョロキョロと見ている。
「ここは、学校……? 僕はたしか、あーちゃんちにいた筈……——そうか。これが瞬間移動ってやつか」
「バカなこと言ってないで教科書出せー。授業始まるぞ」
このアホのような発言からして、杉並には俺に背負われていた時の記憶は少しも無いらしい。
おまえをおぶりながら走るのは相当キツかったんだぞ。二度とやりたくない。
結果、間に合ったから良かったけども……。
「——で、僕はどうしてあーちゃんちから学校までワープしてたのかな? なんたらドア的な物を知らず知らずのうちに使ったとか?」
「瞬間移動でもワープでもなんたらドアでもねーよ。ついでにテレポートでもねーからな」
気付けば午前の四時間授業は終わって今は昼休み。
今日は弁当を持参していないため、三人で学食にやってきていた。
ちなみに杉並はその四時間授業すべてを寝て過ごしていて、担当教師が変わるたびに個々の起こし方でやんわり起こされたりキツく起こされたりしてた。
コイツにとって美術やデザインと関係ない授業はどうでもいいのかもしれない。
……いや、杉並に限らず、美術デザイン科の生徒大半がそうなのかも。
「えー……じゃあ、あと考えられる可能性は……」
そんな瑣末な内容よりも俺は、今朝降旗と在処が一緒にいたことがちょっとばかし気になっていた。
杉並の疑問など正直どうでもいい。
普通に考えれば自ずと正解に辿り着くところ、いつまで経っても非現実的な不正解ばかりが飛び出してくる。
「博也が藍莉ちゃんを学校までおんぶして運んだんだよ」
「えっ! 博也君が僕を……!?」
「ぐっすりだったもんな、おまえ。途中で起きてくれると多少は期待してたんだけどな……」
「……全然気付かなかった。——でも、いい運動になってよかったんじゃないかな! これが俗にいうウィンウィンってやつだね!!」
「感謝の言葉がそれかよ。めちゃくちゃ重い思いして損したわ」
「女の子に対して「重い」って言ったら嫌われちゃうんだよ。発言した相手がそういうの気にしない僕でよかったね」
四人仲良く学校までの道を走っていた際、二人の話す声が聞こえてきた。
杉並が歩美のとこに泊まったのと同じように、在処は降旗のとこへお泊りに行ってたみたいなんだよなぁ。
しかも1日とか2日とかじゃなく、相当長く降旗家に厄介になっているような口ぶりだった。
在処には当然、本来の帰る場所がある筈だ。
——この時の俺は、在処が他人の家に身を寄せなければならない理由について、まったく見当がつかなかった。
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