第80話
基本、毎日を歩美の美声を目覚し時計代りに起床する俺だが、今日は何故だか目が覚めて一人で起きられてしまった。
珍しいこともあるもんだと、我ながらに思う。殊勝な自分を褒めてやりたい。
(……おかしいな……)
寝室から出て廊下を歩く。
いつもならリビングの方から芳しい朝食の香りがする筈が、人の気配がまったく無い。
わかりやすく言うなら、歩美の姿がどこにも無かった。
普段ならこの時間は朝食を作り終えて食べ始めている頃だよな?
まさかあの歩美が朝寝坊をするとは……。
——合鍵を持って歩美の部屋へ行ってみると、案の定就寝中だった。
それも昨日部屋に泊めた杉並に横から抱きつかれた状態で。
同じベッドの上で眠っているとは、中々歩美も頑張ったもんだ。
察するに、二人で夜遅くまで起きていて朝起きられなかった的な感じか。
……はてさて、歩美を俺が起こすとか何年ぶりだ?
どうやって起こしたらいいか考えていると、歩美の瞼が開いて側にいる俺に気付いた。
「博也が私の部屋にいる……どうしたの……? お腹空いて朝ご飯待ちきれなくなっちゃった?」
「歩美、残念なお知らせだ。その朝ご飯なんだが……もう食べる余裕が無い。とっとと着替えて出ないと遅刻する」
遅刻しようが俺に関してはまったく構わないのだが、歩美は優等生だし不真面目な俺と同類に扱われるのはどうなんだろう。
——杉並は……、
こいつはほぼ俺と変わんないから大丈夫か。
授業中とか寝てばっかだしな。断言できる。決して真面目な方ではない。
口に出すとなんやかんや反論してきそうだから、心の中だけに留めておくことにする。
どうせまだ夢の中だから、声に出したって聞こえやしないんだけどな。
「……そっか。昨日寝る前に目覚ましかけ忘れたのかも。ごめんね」
「いや、そういう時もあるだろ。仕方ない仕方ない」
歩美に頼りっきりの俺が偉そうに言える立場じゃないからな。
「……あれ、何か動けない……」
「杉並をどうにかしないと無理だろ」
歩美から離れさせるために杉並を起こしたが、そのあとが結構面倒だった。
寝ぼけているのかやたら着替えに時間がかかったし、制服に着替え終わってすぐに二度寝を始めようとするし……。
遅刻が刻一刻と迫った結果、歩くことすら儘ならない杉並を俺がおぶって登校することが決定した。
最初こそ置いて行こうかと考えたが、歩美にお願いされては断れまい。
そんなわけで、クソ重い荷物を背中に抱えた状態で、二人仲良く部屋を出た。
「在処ちゃんがもたもたしてたから遅刻しそう……一時間目から調理実習なのに」
「ごめんってば。ずーちゃんの朝ご飯がおいしいからつい夢中になっちゃったんだって!」
「そう言われると悪い気はしないけど——」
背後から聞き慣れた声と慌ただしい足音がして、後ろを振り返る。
マンションから出てすぐに、よく見知った二人に遭遇した。
俺や歩美と顔を合わせて、降旗の言葉が途中で中断される。近くには在処の姿もあった。
降旗が遅刻ギリギリの登校なんてなんとも似合わない。
反対に在処ならしょっちゅう遅刻していそうなイメージがあるけれど。
考えられる理由としては、降旗を在処が何らかの面倒事に巻き込んだとか、きっとそこら辺が有力だろう……。
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