第79話


カツカレーにミートソーススパゲティと、他にも旨い弁当が選り取りみどりに揃っていたが、俺は迷わずこのハンバーグ弁当を選んだ。

カレーとかスパゲティは割りかしいつでも買えるけど、ハンバーグ弁当は買えなかったり見かけなかったりで結構レアだからだ。


「いただきま〜す!」


行儀良く、そして元気良く言って、杉並が弁当の蓋を開ける。

二人で歩美を迎えに行ったその帰り、俺達三人は公園に寄ってベンチへ腰掛けた。

お腹が減って帰るまで持ちそうにないと訴える杉並の要望を聞き入れ、外で夕飯を済ませることにした。

スーパーにあったレンジでチンしてきた弁当は、触ってみるとまだ温かい。

側には街灯があって、夜景を明るく照らしている。

弁当の中身もはっきり見えるし、食べるのに不自由はしなそうだ。


「これって博也が好きなお弁当だよね。人気があって中々買えないのに今日は買えたんだ」


「ああ。しかも三つもだ。人数分買えた」


おかずはハンバーグ以外にも大量に入っている。

カニクリームコロッケにフライドポテトにマカロニサラダ。そして漬物だ。

現在杉並が、俺の隣で夢中になってがっついている。女子が小食ってのは、どこかの誰かの偏見だな。


「そういえば博也君、一つ思い出したんだけど」


「んあ……? なんだよ、唐突だな」


一足先に弁当を空にした杉並が話を振ってきた。

食べてる途中だから出来れば完食してからにして欲しかったんだが、仕方なくと内容に耳を傾ける。


「体育の時間、降旗さんに内緒話しようとしてたでしょ。あれ、何を話そうとしてたのかなーって」


「内緒話に見えたなら内容をわざわざ詮索しなくてもいいだろ。文字通り、降旗以外にはなるべく聞かれたくない話だよ」


その件なら放課後に調理科に行って降旗に打ち明けて来た。

あれがダックスの仕業だと知った降旗の反応は以外にも『なにそれ……かわいい』だった。

ぴぽぱと前足でチャンネルを操作するダックスでも頭に思い浮かべたんだろうさ。

自分を一時期恐怖に陥れた愛犬に対するクレームは一切口にしなかったな。


「え〜、なんか怪しい」


「全然怪しくない。特に面白い話はしてないぞ。内容はダックスについてとだけ言っておく。——悪いが、これ以上は何も教えられない」


ダックスの件には多少俺も絡んでるから、ちょっと複雑なんだ。

あの日降旗に聞かせた俺とダックスとの関係を、軽々しく他の誰かに話すつもりはない。

うっかり余計なことまで喋っちまったら、降旗に怒られかねないからな。


「ダックス君の話かー。ふぅーん……——えい!」


俺の箸が止まっているのをいいことに、杉並が余っていたハンバーグの残りを横から掻っ攫いやがった。

この変わり身の早さからして、ダックスの知られざるエピソードには微塵も興味が無いようだ。







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