第78話


歩美からバイトで少し遅くなると連絡があり、迎えがてら最寄りのスーパーに足を運んだ。

朝昼晩の食事は基本歩美がすべて作ってくれているが、今回のように帰りが遅くなる場合の晩御飯は大抵買い食いで済ませている。

今日の目当ては二人分の半額弁当だ。

スーパーはだいたい夜の8時になるとぞくぞくと弁当が安くなる。

500円クラスの弁当が250円になったり、その値段よりも更に安くなる時もあってめっちゃお買い得なんだよな。

なんだか、すげー得をした気分になれる。

だから、その時間を狙って自宅から出だして来たわけだが——そこで、よく見知った顔をみつけた。


同じクラスの黒髪ポニーテール。

杉並藍莉が弁当コーナーをまじまじと物色していた。


「やっぱハンバーグ弁当が狙いだよな」


「——ひっ、ひろやくん……っ!? どうしてここに……?」


弁当の品定めシーンを見られたのが理由かは知らんが、杉並が頰を赤らめている。

杉並にとって値下げされた弁当を購入する行為は、知り合いに目撃されると恥ずかしい場面に該当するらしい。


「そんなもんお前と同じに決まってんだろ。弁当が安くなるまでひたすら待ってんだよ」


すでに安くなってる弁当もちらほらあるが、現段階ではそこまで安いと言える値段ではないな。

人気のあるハンバーグ弁当は、安くなるとそりゃあ速攻で無くなる。

スーパーの弁当の味などたかが知れていると侮っていたが、これが非常に旨くて絶品だった。それはもう何度もリピートしたくなる程に。


「おまえ、よくここには来るのか?」


「……う、うん。ほぼ毎日ね。目当てのお弁当が見つけられなかった時は他の店に行ったりもするよ」


どうやら杉並は何軒かのスーパーを梯子しているようだ。

まあ、たまにシャケ弁しか残ってないなんて日もあるからな。タイミングを読み間違えると何一つ残ってないときもあるくらいだ。

安くて腹を満たせるなら何でもいいってタイプではないらしい。

そりゃ、少しでもうまいもんが食いたいって思うのが普通だよな。なけなしの金出して購入するなら尚更か。


——にしても、毎日買い弁生活送ってんだな……。


「あーちゃんも一緒に来てるの?」


「歩美は絶賛バイト中だ。弁当買ったら迎えに行くとこ。どれにするか決まったか?」


「博也君は決まったの?」


「俺は初めっからハンバーグ弁当一択だ。都合のいいことに今日は大量に余ってるみたいだからな」


店員が作りすぎたのか、いつもは3個ほどしか残っていないハンバーグ弁当が10個近くあった。

客もそれほど多くないし、こりゃ取り合いにならずに済みそうだ。


「僕も同じのにしようかな。美味しいもんね、これ」


杉並とそんな会話をしながら時間を潰していると、やっとこまちわびた瞬間がやってきた。

一人の店員が徐に登場し、ペタペタと弁当に値下げシールを貼っていく。

店員の退散後に値段を確認してみれば、ハンバーグ弁当が半額の値段に下がっていた。


「同じのでいいんだったよな」


「え……? う、うん」


「奢ってやるよ。今日だけ特別にな」


同じ弁当を三人分手に取って、続いて飲料コーナーへと向かう。

手頃なお茶三本を杉並に持たせると、二人してレジへ歩を進めた。




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