第76話
「博也君、なんか暇になってきたから面白い話して」
他人がバレーボールに興じる場面を見飽きてしまったのか、杉並がそんな無茶振りを俺にしてくる。
そんなの突然言われてもすぐには思いつきやしない。
「面白い話、面白い話ねぇ……ずーちゃん、何かあるか?」
俺はそう在処風に愛称で呼んで、隣にいる降旗に丸投げすることとした。
「……これはね、あたしがまだ小学生だった頃の話なんだけど——」
おっ。降旗がなんか語り出したぞ。
ずーちゃんという呼び方に何のコメントもしてこないのは意外だった。
在処に呼んでいいか聞かれた時は『それはイヤ』ってはっきりと拒絶してたのに。
在処に何度も呼ばれているうちに段々と慣れてきてどうでもよくなったとか?
「降旗さんの小学生時代?」
「そう。当時のあたしはお兄ちゃんとほぼ二人暮らしみたいな生活をしてて、家の中には二人以外に誰もいない筈だった」
…………ん?
なんだか毛色が違う気がしてきた。
たしか杉並のリクエストは、面白い話だったような……?
「ある日あたしが学校から帰宅して自分の部屋に入ったらTVが点いてたの。朝には絶対に点いてなかった自室のTVが……。最初はお兄ちゃんが部屋の中に入って点けたのかなって思ってたんだけど、TVなんてお兄ちゃんの部屋にだってリビングにだってあるし、なんか変だなって」
「ひ、博也君……これって……」
「……ああ。おまえが思っている通りの話だ」
俺と杉並の反応など関係無しに、降旗は口を動かして話を続ける。
まさか、まだ明るい時間帯にこの手の話を聞かされるとは思ってもいなかった。
「この現象、この日だけじゃなくて、それから何度も起こったんだよね。決まって誰も家の中にいない平日の昼間に勝手に電源が入るんだけど、あたしは少しずつ気味が悪くなってきて、しばらく自分の部屋で寝られなかった。愛犬のダックスをぬいぐるみみたいに抱きしめて、怖くて震えてたのはいい思い出」
「……え? もしかしてそれで終わり?」
「うん。これで終わり」
「完璧に怖い話じゃねぇか!! ——つうか……」
なーんか、妙に引っかかるというかなんというか……。
何故か俺は、その話の真相を知っている気がした。
「……つうか?」
「あ、いや……降旗って怖い話苦手だったよなって」
「苦手だけど、ぱっと思い浮かんだのがこれだったってだけ。あれって結局なんだったんだろ」
「そ、そのTVが壊れてただけなんじゃないかな……?」
杉並がどうにか心霊現象を認めまいとするが、その問いかけは降旗によって敢え無く否定される。
「買ったばかりの新しいのだったし、お兄ちゃんに見てもらったけど壊れてないって言ってた」
「ワンちゃんが点けたとか?」
歩美のその問いに、降旗は即答で返す。
「ダックスお利口でいたずらとかまったくしない子だったんだ。だから一度も疑ったことなかった」
きっと、観たい番組でもあったんだろうさ……。
俺の脳裏には、自分自身で鑑賞した覚えがない洋画の映像がいくつか焼き付いていたりする。
——これ、よく平日の午後にやってるやつだ。
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