第75話


「在処ちゃんの髪質、博也とそっくりだったっ!!」


「マジかよ!? なんかすげー嫌だ!」


普段はあまりはしゃいだりしない降旗のテンションが、珍しく高く感じる。

髪質がどうとか言ってるあたり、在処の髪を触ってみたのが丸わかりだった。

気軽にスキンシップできるくらいに仲良くなったみたいだが、ちょっと前の険悪な二人の関係からは考えられない。


「博也君の髪って僕触ったこと無いなー」


「触らなくていいんだよ。普通は触ったりしないからな」


現在、円形体育館内で体育の授業中。

毎回体育の時間は他の科の生徒と合同で行われ、バレーばっかりやっている。ほんとうにバレーしかってくらいバレーばっかりやってる。

今回は調理科と美術デザイン科と電気科が一緒なため、授業中に降旗が同じ空間にいるってわけ。

電気科の男子の視線は歩美や降旗に釘付けだ。おそらくは杉並を見てる者もいるだろう。

——そして、この面子を周りに侍らせている俺にはきっと、殺意のこもった視線が向けられている。確実にな。


「それより杉並、こんなところでサボってないで、おまえもバレーに参加してきたらどうだ? 不真面目はよくないぞ」


「それを言ったら、博也君だってサボってるじゃん。——というか、僕達に限らずサボってる人達ばっかりだよね」


この時間は所謂見学みたいな休息の時間だと思ってる。

体育教師は生徒達を野放しにしたまま全くといって関わってこないし、バレーを楽しもうが隅っこに座って駄弁ってようが、どっちを選んでもお叱りを受けたりはしない。

三クラスあわせると人数多いしコートは二つしかないしで、あぶれる生徒が出るのは明白だった。

運動が不得意そうな美術デザイン科の面々のほとんどが、他愛もないおしゃべりをして授業終了までの時間を有意義に潰している。


「確かに紛れもなくサボってるが、そもそも俺、バレーのルールとかやり方知らんしな」


「僕だって同じだよ。バレーとか一回もやったことない。あーちゃんと降旗さんは?」


「無いかな。小学校でも中学校でも私生活でもやったことない」


「あたしはバレーよりバスケットの方が断然好き」


降旗って料理だけじゃなくて、勉強も運動もできるんだよなー。

小学校の頃にかけっこで負けた記憶が鮮明に残ってる。こいつ中々やるなと子供ながらに思ったね。


「そうなんだ。僕はバスケットもやったことないや。家でも学校でも毎日絵ばっかり描いて過ごしてたから」


まあ、バレーやっとけとか言い残してとっととどっか行っちまう教師が悪い。


バレーのやり方なんざ教えなくても誰だってわかる。


きっとそう思ってるに違いない。







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