第72話


背後から胸を鷲掴みにされる杉並という、慣れ親しんだ光景が眼前に展開した。

突如襲来したのはもちろん、話題に上がっていた関という女子生徒だ。


「……関ちゃん、それやめてって僕何度も言ってるよね」


「釣れないことゆーなよ。関さんと藍莉の仲だろ」


そんなよくわからないことを言って、関さんが杉並に抱きついている。

二人の仲がいいんだか悪いんだかはっきりしない様子を、俺はメシを食いながら眺めていた。

仲がよければ何をやっても許されると信じて疑っていないようなセリフだ。


「博也君、いまのみた……?」


「ん? ああ、ばっちりと。ていうか、いまもみてる」


「みてなくていいよっ!? 僕から目線離しててよ!」


とは言われても、目の前にいられちゃみたくなくても視界に映っちまうからな。

横でも向いてろってか? 人使いの荒いやつだ。


「なあ、関さんよぉ。ちょっと質問いいか?」


「なんだよ色男。関さんをおまえさんのハーレム要員に加えたいって相談ならお断りだぞ」


俺が色男だとかハーレム要員がどうだとかいう、意味不明な部分は置いておいて……とっとと本題に入ろう。

いちいち反応するのもかったるい。


「そんなつもりは微塵もねぇよ。杉並の体に執着する理由を聞きたいだけだ」


「デカいから」


「デカいから?」


「うん。藍莉は何気にデカいからムカつく」


デカいというのは身長のことではなく明らかに胸のことだろう。

とは言っても、前述したように歩美や降旗とそこまで差はない通常のサイズだ。

高校生という齢に相応なちょうどいい大きさって感じなんだよな。

関さんが小さすぎるだけ……見た感じぺったんこだしまったく成長の兆しがみられない。つまりは、ただの妬みや嫉妬の類か。


「な、なんだよー。人の胸じろじろみやがって。このヘンタイ」


「それ、おまえにだけは絶対に言われたくないセリフだよな」


こいつは胸も無いが背も低い。体型だけならロリっ子と言っても過言では無いくらいだ。

……ふむふむ。よく見るとまあまあな相好をしている。今まで少しも興味が湧かなかったから気が付かなかった。

ひょっとすると、杉並の次くらいには見た目が整っているのかもしれない。

男勝りな口調だけどうにかならんのかな。


「今思ったんだが、ムカつくという理由だけで揉んでるってなら、それは逆効果なんじゃないか? よく言うよな。胸は揉むと大きくなるって」


ただの迷信かもしれないが、誰でも一度くらいは耳にしたことがある筈だ。

これを聞いた女子達の反応は、各自で異なっていた。





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