第71話


「博也君のえっち! どうりでなんか視線を感じると思ったよ! というか、そこは空気を読んで目を逸らしてほしかったっ!!」


「無茶言うな。あんなんほぼ一瞬の出来事だろうが。それに、わざわざ目なんか逸らさねぇよ」


「なっ、なんでさ!」


「逸らす理由が無い。おまえが無防備なのが悪い」


美術デザイン科が女子ばかりだからって気ぃ抜いてただろ。

俺を含めた五人の男子の存在を忘れてもらっちゃ困る。

おそらくだが、他の四人全員がおまえたちの百合っぽい光景を目に焼き付けてるぞ。


「あんなの防ぎようがないよ! だっていつもいきなりなんだよ!」


まさか女子にスカート捲りされるとは、杉並も予想してなかったと思うしな。

咄嗟にスカートを押さえても、時すでになんたらだ。


「そりゃまあそうなるな。スタンダードなやり方だ。いちいち「スカート捲っていい?」って了解を取るヘンタイはいないだろう」


今思えば杉並がいたずらされるときって、決まって俺の目の届く範囲だ。

偶然にしては出来すぎている気がするし、狙って行われてるとしたらやつの意図がわからない。


「関さん、藍莉ちゃんにいたずらするの好きだよね。藍莉ちゃんの体って、何度も抱きつきたくなるほど柔らかくて触り心地がいいの? 中毒性高いの? いい匂いするの?」


珍しく歩美が興味津々にそんなことを聞いていた。

「おしえて」と言わんばかりに杉並の瞳をジーッと見つめている。


……なんでだろう。好奇心に駆られたその姿すら可愛く感じてしまう。


「へっ……? 自分じゃわかんないな。どうなんだろ……そんなの意識したことなかったし」


「いい匂いなら歩美からもするだろ」


「私のいい匂いってなんだろ。シャンプーの香りとかかな? 博也が使ってるのと同じのだけど」


ここが美術デザイン科の教室内でよかったと心から思う。

歩美と同じシャンプー使ってるとか、別の科の男子に聞かれたらブチ切れされてたところだ。


「じゃなくてさ、女の子特有の匂いのことだよ。なんかわかんねぇけど、女の子ってみんな挙っていい匂いがするもんなんだろ」


「「…………………………」」


……あれ、なんだろう。

この女子二人の長めの沈黙は。

俺なんかまずいこと言ったのか? 言ってねぇよな?

ちなみに歩美は、俺の発言がよく理解できなかったのか首を傾げている。

歩美はほんと、どんな動作をしても可愛いな。


「博也君って、もしかしてどうて——あひゃ!?」


杉並がよからぬ単語を口にしようとして、言葉の途中で間抜けな悲鳴をあげる。

多分と言うつもりだったんだろうが、それをいいタイミングで阻止してくれたのは、たった今話題に上がっていたその人だった。


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