第70話


「もう。博也君のせいで先生に怒られちゃったよー」


最初こそ小さめの声音で話してたんだけどな。俺としたことが迂闊だったぜ。

杉並の「博也君のせい」には素直に 納得できんけど。


「俺だけのせいじゃ無いけどな。おまえも大概うるさかっただろ」


「いやいや、僕は博也君ほど大きな声出してないし」


「嘘つけ。最初にでかい声で騒ぎ出したのはお前だったと記憶してるぞ」


「二人とも、ごはん食べないの? 食べる時間なくなっちゃうよ」


授業終わりに二人仲良く教師の説教くらって帰ってきたばかりだ。

待たせちまった歩美には悪いことしたな。これ以上言い争うのはやめて席につこう。

腹減ってるし、くだらない揉め事に時間を浪費してメシが食えなくなるのは嫌だ。


「あーちゃんはどっちが悪いと思う? 僕は悪くないよね? ね?」


弁当を食ってる最中もこの話は続いた。いいかげん面倒になってきている。


「どっちが悪いとかそういうのやめにしないか。せっかく旨い歩美の手作り弁当が不味くなるだろ」


「博也も藍莉ちゃんも悪くないよ。悪いとしたら、二人が先生に怒られる前に止められなかった私だと思うから」


……いや、その発想は全然無かったわ。

どれだけ性格がいいんだよ。歩美はこれっぽっちも悪くないのに。


「ごっ、ごめんあーちゃん! 僕いじわる言った! あーちゃんが博也君のこと悪く言えないの知ってるはずなのに……ほんとーにごめんね! 悪いのは全部僕! 博也君をからかって遊んでた僕でした!」


若干歩美がしょぼんとしている顔を目撃し、慌てて杉並が謝罪の言葉を述べた。

「あーちゃんは悪く無いよ!」と言わんばかりに、ひしと歩美に抱きつく。


……やっぱりからかってやがったのか。


まあ、弁明もせずに素直に謝ってるし、許してやるとするか。


「藍莉ちゃん、博也のことからかってたんだ。普通に仲良く話してるだけだと思ってた」


そこまで悪質なからかいではなかったにしろ、俺を小馬鹿にしていたのは紛れも無い。

いつか今日の仕返しに杉並をからかってやろう。

思わず赤面するくらいの恥ずかしいことを聞いたりやったりしてさ。


「だってさ、博也君がやたらめったら降旗さんを推すんだもん。変な対抗心が芽生えちゃって」


「対抗してなんになる? お前の体なら最近見飽きたからあんまし興味ないぞ」


「……え? それってどういうこと?」


俺の発言内容に、杉並はまったく見当がついていない様子だ。

別段隠すことでも無い。詳細を教えてやってもいいか。


「服越しにだけど何度も見たんだ。激しめに胸揉まれてるところとかスカート捲られたときにちらっとだけ見えたパンツとか。目の前で戯れ合われたんじゃ視線の逸らしようがない」


杉並が目を丸くする。

女子なのにエロ親父かよってくらいのセクハラの頻度だからな。やつは相当杉並にご執心なんだろうさ。


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