第69話
「降旗さん優しいし、博也君が一生懸命お願いすればやってくれるんじゃないかな。地面に頭を擦り付けて懇願するとか」
「それって最早土下座じゃねぇか。俺にヌードデッサンとか絶対に無理だし描けなそうだからいいわ」
まだまだ続きそうなヌードデッサンの話題。
言い出しっぺは俺だが、こんな話しなきゃよかったと軽く後悔していた。
石膏デッサンすらまともに描けない俺に、人物画は手に負えそうにない。
ヌードはどうか知らんが、人物画は近々あってもおかしくないんだよな。
「描く前に決めつけちゃうのはよくないよ。僕の体で練習してみる?」
うん。今のこいつのセリフ、後半だけなら完全にエロい言葉にしか聞こえないな。
本気で言ってるのかふざけて言ってるのか。俺をからかってるようにしか思えない。
「いいのか。そんな大胆な言葉を発せられるんだ。俺に脱がされる準備はできてんだろうなぁ?」
杉並には歩美や降旗より優っている部分が一つだけある。
ずばり言うと、それは胸だ。
こいつの胸はおそらく二人より大きい。
大きいとは言っても誤差の範囲だが、一番モデル映えする体つきなのは杉並に間違いない。
杉並はよくクラスのいたずら好きな女子生徒に、後ろから抱きつかれ胸を揉まれたりスカート捲りをされたりしているんだが、その時にこの目でしかと確認した。
別に好きで見てたわけじゃないぞ。席が近いから嫌でも目に入るんだ。
なんか言い訳っぽいが、すべて事実だ。
「僕の着てる服を剥ぐところから始めたいの……? 博也君、やっぱりえっちだ」
そう杉並が口にして、わざとらしく自分の体を抱いた。
剥ぐとかいちいち言い回しがうぜぇ。
やめろ。そんな目で俺を見るな。その目はちょっと引いてるだろ?
「これから生まれたままの姿を描かれようとしてるモデルが、そんくらいで恥ずかしがってるようじゃ、そんな大役務まらないぞ。途中で羞恥に耐えられなくなってゲームオーバーだ」
俺は一体何を力説してんだろうなぁ……。
むかつくことに、杉並は依然として平然としている。
赤面とかまったくしてねぇし、それくらい余裕って表情だ。
まさか、度重なるクラスメイトのセクハラ行為のおかげでエロに耐性がついたんじゃあるまいな?
「たしかに。それは博也の言う通りかも」
歩美が俺の発言をフォローしてくれている。
やっぱ歩美さんはいつでも俺の味方なんだな。心強いぜ。
「あーちゃんが博也君の味方してる……博也君ずるいよー! 僕もあーちゃんに擁護してもらいたいっ!」
「はんっ! 歩美は正しい俺の主張に賛同してくれてるだけだぜ! 悔しかったら俺から歩美を奪って味方になってくれるよう切願するんだな!」
「そこの二人、静かにっ!」
「「……あ、はい。すいません……」」
大きな声で駄弁る俺と杉並を教師が一喝する。
気づけば俺達は、今が授業中であることをすっかり忘れてヒートアップしていた。
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