第68話
「ヌードデッサンっていつかやったりすんのかな」
気がつくと、俺はこんなことを女子二人相手に口走っていた。
美術と言えばヌードデッサン。芸術と言えばヌードデッサン。そんな風に思っていた時期が俺にもありました。
——いや、今でも思ってるんだけど。
これって偏見ってやつかな?
「博也君、ヌードデッサンやりたいの?」
「やりたいかやりたくないかの二択ならやりたくない。やると決まってるならどうせやらにゃならんだろ」
杉並に聞かれて正直に答える。
今現在デッサンの授業中だからこそこんなしょうもない考えが浮かんだわけで、別にやりたいとか微塵も思ってないぞ。ほんとだぞ。
人間描くのって難しいからな。特に顔とか。
「やるかどうかはわからないけど、描くってなった場合、生徒の誰かがモデル役に任命されたりするのかな? ——例えば、成績の一番悪い人が罰ゲームとしてやらされるとか?」
「それだと高い確率でモデルは俺ってことになるじゃねぇか……つうか、ほぼ確定だ」
こいつ、俺が美術全般苦手なのわかってて言ってんのか?
クラスの連中に俺の生まれたままの姿をガン見され紙に描かれる。そんなもん想像もしたくない。不登校になる自信があるわ。
「そん時はそん時で杉並に役目を押し付けるから、そこんところよろしく」
「博也君、僕の裸みたいの? えっちだね」
えっちだねって、そんな恥ずかしくもなく言われてもね。
貧乏の杉並なら、金を積まれれば粛々と役目を全うしそうだけど。
「みるなら杉並より降旗の方がいいかな」
「どうして降旗さんと比べられてるのかはわからないけど、そもそもみんなに人気な降旗さんと平々凡々な容姿の僕じゃ比べ物にならないよね」
自分を卑下しすぎな気もする。
杉並も十分に可愛い見た目だが、降旗と比較すりゃそうだろう……。
まあ、あいつの裸はダックスとの記憶共有で一度見てるんだけどな。
……小学生のときのだけど。
「博也は杏子ちゃんの裸が描きたいんだ?」
「杉並を描くならって話で本当に描きたいわけじゃないぞ。さすがにあの降旗でもそんなの引き受けてくれないだろ」
歩美がそんなことを聞いてきたが、可能性は一ミリもない。
ヌードデッサンのモデルの仕事は報酬が高いらしいが、降旗はたとえ億単位で積まれても絶対にやらないな。断言できる。
後々ヌードデッサンを実施することになったとしても、生徒の中からモデルを選んだりはしないだろ。その道のプロに依頼して来てもらうってやり方が有力だな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます