第63話


「嘘でしょ……? じゃあどうして、ありかにはあんなにも辛辣で無関心なの!? 意味わかんないっ!!」


「とりあえず初対面のあの態度がいけなかったよな。遠慮とかまったく無しにあれこれ言ってたろ」


調理科実習室に二人っきりでいるとやたら気まずい。

在処がどうのとかいう話ではなく、周りの女子達の視線が。

降旗がこの場にいないと、俺もこいつも完璧な部外者だからな。

降旗にはなるべく早く戻ってきてもらいたい。


「最初に顔を合わせた時ねぇ……ありか、あの子が気に触るようなことなんて、何か言ったっけ?」


在処自信に身に覚えが無いと主張されては、最早お手上げだ。

俺にできることは何もない。

……つうか、こいつと一対一で話すのは何気にこれが初めてなんじゃないだろうか。


「少しも思い当たらないのか?」


「全然思い当たらない」


「よし、もうこの話終わりな」


「ちょっと待って! ひろくん冷たいっ! ありかが降旗さんによく思われてない理由を知ってるなら、もったいぶらずに教えてくれたっていいでしょ!」


在処のこの発言からは、降旗との関係を改善したいという気持ちが微かに感じられる。

降旗と在処のやりとりは一見ギスギスしているように見えて、漫才に近い面白さがあるからこのままでいい気もするが、在処が降旗と友達になりたいと考えているなら話は別だ。

そういうことなら、微力ながら協力してやりたいと思う。


「降旗に直接聞いたわけじゃないからはっきりしたことは言えんけど、おまえっていつも口調が喧嘩腰なんだよな。誰に対してもああなわけ?」


昔はこんな奴じゃなかったよなぁと、幼い頃の記憶を思い出してみる。

高校生にもなれば見た目はもちろん考え方も変わるよな。

ただ、こんな横柄な態度だと友達はかなり少ないんじゃないか?

余計なお世話かもしれないが。


「……へ? ええまあ。特に誰が相手だからって口調なんて変えないけど。あるとすれば先生くらい?」


そりゃそうだ。

教師にまであの喋り方だったら相当肝が据わってる。

あんまり感心はできないけどな。


「誰かと仲良くなりたいと思ったら、誰だって友好的な態度で他人と接するだろ。おまえにはそれができてない。ずばり聞くが、降旗と友達になりたいとか思ってたりするのか?」


「仲良いに越したことはないかもね。ずーっといがみ合ってても疲れるだけだし。降旗さんにその気があればの話だけど」


なるほど。あくまで自分から行動を起こすつもりは無いと。

単純に、恥ずかしくて仲良くして欲しいとか言い出せないだけなんじゃないのか。

俺にはそう見えてならない。








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