第62話


調理開始から数分後、両者の厚焼き玉子が完成し、調理台の上に並んでいる。

最初こそ玉子を巻くのに失敗していた在処だったが、なんとか形にはなったみたいだ。

所々焦げていて、降旗の綺麗なのと比べたら見た目がすげぇ悪いけれど……。


「審査するのは本当に俺でいいんだな?」


「あたしは博也でいいけど。そっちの人は?」


「ありかもひろくんで構わない。——ただし、くれぐれも忖度は無しだかんね。俺は降旗の味方だーとかなんとか言っていいかげんにだけはやらないで。ちゃんと見た目と味で評価してくれないと困る」


在処がそんなことを念押ししてくるが、見た目の時点でお前はすでに一負けしてるも同然だし、味の方に関しても結果は変わらないと思う。

万が一ありえるとすれば、降旗が使う調味料の分量を間違えるとかだろうか。


「わかってるよ。降旗の味方なのは変わらないが、審査を任された以上、仕事はまじめにさせてもらう。贔屓はしない」


「降旗さんの味方公言は甚だ気に入らないけど、ちゃんとしてくれるなら文句は——って、あんたどこ行こうとしてんのっ!?」


「どこって、帰る準備。ロッカーに調理道具とか片付けてくる」


「はあ……? 今からひろくんに食べ比べしてもらうんだから、そんなの後ですればいいでしょ。ありかとあんた、どっちが優れてるか興味無いってわけ?」


在処の発言が珍しくまともだ。

これから審査を始めようとしてるのに、降旗はいつもどおりのマイペースだった。


「博也、あたしが席を外しているあいだに終わらせておいて。食器は戻ってきたら片付けるからそのままでいいよ」


「お、おう。わかった」


「ちょ、ちょっと、待ちなさ——」


在処が声をかけるも虚しく、降旗は実習室から廊下に出てロッカーに向かって行った。


「ほんっとに可愛げが皆無。顔が抜群に整ってるってだけで性格は最悪ね。男子も女子も挙って持て囃して、一体あの子のどこに魅力を感じてるってのよ」


「やっぱ降旗の作る食いもんはうめぇなぁ。100点。いや、120点」


「ねぇ! ありかの話聞いてたっ!? 降旗さんがさぁ——」


「聞いてたよ。降旗が顔だけ上級で性格は下級だって話だろ。それでどうしてあんなにあいつに惹かれるやつが多いのかって」


一口分の厚焼き玉子を咀嚼し飲み込んでから、うるさい在処の疑問に答えてやった。

こいつはまだ出会ったばかりだから、あいつのことをよく知らないだけだ。

降旗みたいな性格と容姿が最高な人間は中々いないだろ。

もちろん、歩美が降旗と比肩するレベルなのは言うまでもない。


「そうそうっ! それよそれ! なぁんだ、ひろくんちゃんとありかの話聞いてたんじゃない。てっきり無視されてるのかと思った」


「俺が知る限り、降旗がキツく当たってるのはお前だけだぞ。他の誰かと接してる時は普通に穏やかだし」


まあ、降旗と在処の出会いは最悪だったからな。

降旗がおとなしいのをいいことに好き勝手言いまくってたんだ。

あの日あの瞬間に一気に嫌われたんだろうよ。生理的に無理ってよく言うだろ。

多分、そんな感じだ。













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