第60話


「ちょちょちょちょ……ちょっと待って! 今すぐはさすがに無理。ありかにも心の準備とか料理のれんしゅ——じゃなかった。今日は大切な用事があって、降旗さんと遊んであげる暇は一分一秒も無いの!」


とかなんとか言ってる在処だが、言い訳が色々と苦しい。

だったら調理科に出向いて油売ってるお前はなんなのか。

あと、関係ないがちょちょちょちょうるせぇ。


「自分で料理対決がどうのとか言い出したくせに。怪しい」


「ぜんぜん怪しくなんかないっ! とにかく今すぐとかダメ!せめて明日! 明日なら構わないけど!」


大方、一夜漬けで料理の練習をそれなりにしてくるつもりなんだろうさ。

降旗がそんなくだらない対決受ける筈無いと高を括ってたな。

お前が下手っぴとか言って刺激するからだぞ。自業自得だ。

さてさて、畑違いの在処がどこまで食らいついてこれるのか。みものではある。


「明日は明日で更に引き伸ばされる未来が見えるな」


「うん。見える。それでどんどん先延ばしにされていって、結局は反故にされそう」


「しない、しないから。そこは信じてくれていいから。絶対に明日勝負するから。どうして信じてくれないかな?」


「そりゃ在処に信用できる要素が何も無いからだろ」


俺の見解に、降旗が「うん」と頷いて肯定する。

在処は「否定しなさいよ」と言って不服そうな顔をしているが、降旗からしたらお前って完全に敵キャラのポジションだし、信用されなくてもしゃあないわ。

何かにつけてからんでくる目障りで面倒なやつ。おそらくこんな感じに思っているに違いない。


——詰まる所、降旗は在処の退却を許した。


あいつの用事があるという発言も、百パーセント嘘かどうかはわからないからな。

降旗が在処の訴えを信じてやったってことだ。


「降旗、おまえ本気か?」


「本気って、なにが?」


「在処は作れてもおにぎりが精一杯の素人だ。あの慌てようだと包丁とか碌に使ったこと無さそうだし、おまえとまともな勝負になるとは思えないんだが?」


まあ、決めつけるのもあまりよくないが、あいつは料理って柄じゃないしな。

在処が台所に立ってる姿がまったく想像できない。


「かもしれないね。それでも手を抜く気はさらさら無いけど」


降旗がこんなお遊びに本気になるとは珍しい。

いつもの冷静な降旗なら適当にあしらって、絶対に相手にしない。

下手っぴとか言われてよっぽど悔しかったんだろうな。

在処の戯言なんか気に留める必要ないのに。あいつの垂れ流すいいかげんな言葉をいちいち気にしていたら、時間がもったいないだけだ。



















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