第59話


「誰が敗者よ。誰が」


「あなたが敗者。勝者があたし」


降旗相手に在処がしつこく噛み付くも、こちらも一歩も引く気はないようだ。

謎の対抗心が降旗を突き動かしている。


「いつありかとあんたが勝負なんてしたの?ちょっとひろくんが味方してくれたってだけで調子に乗らないでくれる?」


「そんなことどうでもいいから早く食べたら? せっかくのごはんが冷めたら美味しくなくなる」


「ぐっ……決してどうでもよくなんかないけど、それに関しては一理ある。いただきます」


てっきり「いただきます」の言葉も無しに搔っ食らうのかと思っていたが、在処もそこまで失礼な奴ではなかったということか。

俺の中で少しだけ見る目が変わった。


「ふ、ふうん。こ、ここ……これくらいなら、ありかにも余裕で作れる、かな」


声を震わせながら言っても説得力無いな。

明らかに動揺してるじゃねーか。

こりゃ正直に美味かったって言うのが癪で強がってるとみた。


「無理すんな在処。降旗の料理はうめぇだろ」


「そうだそうだ。無理すんな」


俺が発したセリフを降旗が繰り返し言って畳み掛ける。

それでも在処は強気の姿勢を崩さない。


「べべべ、別に無理なんかしてないし……!素直な感想だしっ! なんならありかの方が上手いくらいだから! 降旗さんなんて下手っぴ過ぎて相手にならないね!」


「むっ……」


在処の戯言を真に受けてしまったのか、降旗が合点がいかない声を発した。


「降旗の料理の腕はかなりのもんだぞ。普通科のお前が毎日料理の勉強に勤しんでる降旗より美味い物が作れるとは思えないんだが」


在処が毎日自炊してるとは考えられないからな。

カップラーメンやレトルト食品ばっかりに手を出していそうなイメージだ。

それらがよく似合っていると言い切ってしまっても過言ではない。

認めたくはないが、こいつのがさつな部分は俺とよく似ている。料理以前に調理器具を扱えるのかどうか怪しいところだ。包丁で指とか切りそう。


「そんなに信じられないなら、いっそ料理対決とかしちゃう? 負けるのが怖い降旗さんにはありかと勝負するなんて到底無理な話だろうけど」


「いいよ。受けて立つ」


「…………え? 受けて立つ? ありかの聞き間違いじゃないよね? ほんとに受けて立っちゃうの……?」


あーあ。

在処のやつ墓穴掘ったな。

もう知らね。

そんなんやらなくても結果は目に見えてんのにな。


「いつ勝負しよっか? あたしは今すぐでもいいんだよ。ここには食材も道具も揃ってるし」


降旗にこてんぱんにされた在処のビジョンが、たやすく脳裏に浮かんだ。

















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