第56話

何一つ包み隠すことなく、ダックスとの関係を降旗に打ち明けたつもりだ。

最初こそ半信半疑だった降旗も、自分とダックスしか知り得ない出来事が俺の口から語られると、見るからに表情が変わった。


「博也ってさ……」


「あ、ああ……」


粗方話終わったところでの降旗の一声。

何を言われるのだろうか……ちょっとだけドキドキしていた。


「あたしのストーカーとかやってた? 普通に怖い」


「やってねぇよ!? どうしてそうなる!!」


さっきまで涙を零していた降旗もすっかり本調子。

俺をからかう余裕が戻ってきたみたいだ。


「……冗談。博也でもからかってないとまた思い出し泣きしちゃいそうだったから」


それはわかる。

お前とダックス、すげぇ仲良かったもんな。まさか、あんな別れ方を経験するとは思ってもいなかっただろう。


「だよな……無関係な俺ですら貰い泣きしちまったくらいだし。ダックスと家族だった降旗なら尚更辛いだろ」


「博也は長い間ダックスと体を共有してたんだから、無関係ではないでしょ」


「その言い振りだと、俺の話信じてくれてるみたいだな」


「——そりゃ、バスタイム中の思い出まで事細かに語られちゃったら信じるしかないよね。たとえ知っていたとしてもそこは省いてくれたらいいのに。馬鹿正直過ぎ」


たしかに、そこは話そうか話すまいか迷った部分ではある。

でもなんだろう。

強いて言うなら、降旗のあられもない姿を見てしまった罪悪感かな。一応報告しておいた方がいいのかなと。


「忘れられるなら今すぐにでも忘れてほしいくらいだけど」


「いや、無理だな。この目にしっかりと焼き付いちまってる。しばらくは忘れられそうにない」


「あっそ。なら仕方ないか」


あっそって……男に裸を見られてそれで済んでしまう降旗さん心が広過ぎないか?

太っ腹というかなんというか、こういうのってラッキースケベとか言うのかね。

普通の女子相手なら殴られてもおかしくない事案だ。


「……なんか、ごめん」


「別にいいよ。博也は何も悪くないんだし」


——二人の会話はそれまでで、降旗のその言葉を最後に長い沈黙が続いた。

お互いに、これ以上何を話していいのか分からなかったんだと思う。


まあでも、頼まれた感謝の言葉は降旗に伝えられた。

これでダックスは、後ろ髪を引かれることなく天国へ行けるのだろうか。

あいつの望み通り、二人がこの世界で再び巡り会えるといいな。それはできるだけ遠くない未来に実現するのが望ましい。

生まれ変わったお前がたとえどんな姿をしていようが、降旗なら必ず受け入れてくれるさ。またまた犬でも俺達と同じ人間でもだ。

満面な笑顔で「おかえり」って。




















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