第55話


「……ねぇ、博也」


「ん、どしたー?」


小学五年生だった当時、歩美は降旗とうまく接することができずにいた。

降旗が近くにやってくると、決まって俺の後ろに隠れるんだ。


「どうしてあたし、歩美ちゃんに警戒されてるの?」


「ああ……話して無かったけど、歩美は女性恐怖症で年の近い女子と話すのがあんまし得意じゃないんだ」


先生みたいな大人の女性や小さい女の子とは問題なく話せるんだけどな。

降旗と仲良くなるまでは、俺と諒が数少ない話し相手だった。


「この怖がられよう……あんましってレベルじゃないよね」


不良にでも絡まれてるんじゃないかってくらいの避けられようだからな……。

教室で顔を合わせても廊下でばったり会っても。


「大丈夫だ。歩美はクラスメイトの女子全員に同じ行動を取ってる。降旗だけにってわけじゃないぞ」


「歩美ちゃんは女子だけじゃなくて男子とも距離を取ってるよね。博也だけが特別って感じ。博也のくせにずるい。あたしも歩美ちゃんと仲良くしたい」


このときは、歩美に女子の友達が作れるのかどうか半信半疑だったんだよな。

降旗が女友達第一号になってくれたおかげで希望が見えてきた。

この世に不可能なことなんて無いんだって思えたんだ。



「特別って……歩美は諒とも普通に仲良いぞ」


「諒は隣のクラスだし。あたし達のクラスで歩美ちゃんと仲良いのは博也だけでしょ」


諒とは五年生になってから別のクラスになっちまって、クラス内で歩美はまたまた俺以外に話せる相手がいなくなっていた。

俺みたいなやつでも、いないよりはマシだったけどな。

あの日、二度と歩美を孤独にさせないと誓い、手始めに諒を仲間に引き入れた。

女子の方もいずれはと考えていたところだったし、だから降旗の歩美と関わりたいって要望は非常に都合が良かった。

こうやって立候補してくれるやつの方が、そこらから適当に選んだなんちゃって友達なんかより何十倍もいいからな。


「歩美と仲良いのが俺だけねぇ……かもしれない。かもしれないなー」


「かもしれないじゃなくて、現にそうなの」


「そんなに言うなら、降旗も友達になればいい話だろ。歩美、降旗が友達になってくれるってさ」


そう歩美に伝えると、俺の後ろからちょこっとだけ顔を出して降旗の方を見る。

表現するなら恐る恐るといった感じだ。


「……ほんとう?」


嬉しさ半分戸惑い半分だったが、表情から察するに期待の方が大きいんじゃないだろうか。

歩美だって本心では、女子の友達が欲しいと思ってるだろうし。


「う、うん……あたしと、友達になってくれたら嬉しいな」


優しく微笑みかけながら、降旗が手を差し出す。

ぎこちない様子で逡巡はあったものの、歩美も手を伸ばして降旗の手を取った。











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