第49話
カンカンカンと、近くにある踏切の音が聞こえてくる。
あんずちゃんの帰りを玄関先で待っている際によく聞く音だ。
平日の家の中は、あんずちゃんも杏也君も学校でいないから至極暇なんだよね。
これといってすることもないから、ひたすらごろごろしたりTVでも点けてボーっと眺めてるくらいでしか時間を潰せない。
あ、ちなみにTVは前足を使って器用に点けます。点けたところで退屈なニュース番組しかやってないし、すぐに消しちゃうんだけどさ。
(……帰ってきた。あんずちゃんだ)
外から聞き慣れた足音が聞こえて、玄関扉の鍵をカチャンと解除した。
毎日待ってるもんだから、あんずちゃんが帰ってくる時間もだいたいわかってきた。
「ダックス、ただいまー。今日もここで待っててくれたんだね」
「ワンワン!」
そうです。ここでずっと待ってました。
伝わってはいないだろうけど、犬語で言葉を返す。
ぼくの毎日の楽しみは、午後に帰ってきたあんずちゃんと外に出て遊ぶこと。
最近はフリスビーを買ってもらって、もっぱらそればっかりで遊んでいます。
「ああ……やっぱりダックス触ってると落ち着く……癒される……」
学校での生活でストレスを感じているのか、ぼくを撫でるのはあんずちゃんにとって癒しの一つとなっている。
早く遊びに行きたい衝動はあるが、あんずちゃんが満足するまではおとなしくしていよう。
なんといっても、飼い主に愛されるのは飼い犬にとってこの上ない喜びなのだから。
「公園に行ってフリスビーやろうか。ダックス、キャッチするの上手だもんね」
「ワンっ!」
自宅からほんの五分ほど歩いた先に公園がある。
金魚の滑り台が目印の、金魚公園と呼ばれ子供達に親しまれてるところだ。
まあまあ広いから、空中を飛んだフリスビーを追いかけるにはもってこいの場所なんだよね。
「いくよ、ダックス」
「ワン!」
あんずちゃんが放ったフリスビーを全速力で走り追っていく。
振り仰ぎ、確実にキャッチできそうな場所で跳躍。口でフリスビーを見事に挟み込んだ。
すぐにあんずちゃんの元へ戻って行って「もう一回やって」と訴えかける。
「ダックスすごい! これで三回連続で成功だよ」
「ワンワン!」
「この前は十回超えても落とさなかったよね。確か最高記録は十三回? 今日は何回連続でいけるかな」
あんずちゃんの期待に応えるなら十五回は成功させたいかな。自分自身の記録を更新して塗り替えるんだ。
あんずちゃんが頭を撫でて褒めてくれるなら、ぼくはなんだってできる気がするよ。
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