第48話


あんずちゃんは暇さえあればずっと僕の頭を撫でている。長い時はだいたい十分くらいかな。

よくわからないが、そうしてると安心して落ち着くのだそう。

不快でもなんでもないので、僕はこれといって何もせずされるがまま。

あんずちゃんの気が済むまで、いつもぬいぐるみの如くじっとしているんだ。


「ダックスって従順だよね。いつでも頭撫でさせてくれるし尻尾触っても怒らないし全然暴れたりしないし」


命の恩人に楯突くような愚か者にはなりたくないからね。

ぼくはあんずちゃんに救って貰わなければ、どうなっていたかわからないんだ。


「そろそろおやつの時間だね。ダックスの好きなゼリーがあるよ」


ぼくの好きなゼリーというのは、あんずちゃんが杏也君に教わって作ったコーラゼリーとレモンティーゼリーのことだ。

教わってから何度か作ってくれているんだけれど、これがおかわりをお願いしたいほど無性においしい。着実に料理の腕前が上がってるんじゃないかな。


「リビングに行って一緒に食べよ」


あんずちゃんがぼくのからだを抱えて自室を出る。

二階から一階に降りてリビングへ向かうと、ゼリーを冷蔵庫から取り出して専用の器に移してくれた。


「うーん……やっぱりお兄ちゃんの作ったやつの方が美味しい気がする。なんでだろ? 材料も作り方もおんなじなのに……」


自分で作ったゼリーを一口食べて、あんずちゃんが納得のいかない言葉を発する。


(杏也君はいちおープロになろうとして料理関係の学校に通ってるわけだし、そんな簡単に越えられちゃったら立場がないんじゃないかな)


「あたしも高校生になったら調理科に行こうかなぁ。食べ物作るのって結構楽しいし」


「ワン!」


うん。いいんじゃないかな。

杏也君に対する負けじ魂が強いんだとは思うけど、作るのが大好きなあんずちゃんにはぴったりだ。


「それがいいって……? まだ小学生だしすっごい気が早いけど、ダックスが賛成してくれるなら候補として考えておくのもいいかもね」


あんずちゃんはこのゼリーの出来に頭を捻っているみたいだけど、ぼくにとっては十二分においしいよ。

いつかあんずちゃんが杏也君を追い抜ける日が来るのかな。

現段階でこれだけおいしい食べ物が作れるんだ。

意外とそう遠くない未来に実現したりして……?


「ダックス、もう食べ終わっちゃったの?」


「ワン!」


「また作ってあげるね」


早々とゼリーを完食したぼくを見て、あんずちゃんが微笑んだ。


もっと自信を持って。


君の作る食べ物は、思わず早食いしちゃうくらい美味なのだから。





















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