第47話


「ぞんび、きもちわるい……」


晩御飯の時間にテレビが点いてたんだけど、それがあんずちゃん苦手のホラー映画だったんだ。

杏也君が観てたから仕方なくって感じで。

なるべく画面を見ないでごはん食べてたみたいだけど、音だけはどうにもならないからね。

悲鳴と唸り声が織りなす阿鼻叫喚の嵐だ。


「お兄ちゃん、ぞんび見ながらよくごはんが食べられるよね。信じられない」


カレーがアレに見えたりしもつかれがアレに見えたりする現象と似ているのかな。

一度思い込むと食べられなくなる人がいるみたいだね。

でも、さすがに魚は肉を食べてるようには感じないんじゃないかな。今日のメニューを変更せずに酢豚を食べてたらどうだったかはわからないけれど。


「うう……ぞんびの映像が焼き付いて離れない。お兄ちゃんの前じゃ強がり言ったけど、やっぱりこわい」


あんずちゃんは、ベッドの上で布団を頭まで被って、わかりやすく戦いていた。


(杏也君、面白がってあんずちゃんのことからかってたもんなぁ)


あんずちゃんがなるべくテレビに視線を向けないように食事に集中してたら『あんず、ゾンビこわいのか? 全然画面見ないじゃん』とか言ってた。

その言葉に対してあんずちゃんは『べつに……つまんないから観てないだけ』と、適当に遇らってたっけ。

こわがってるのばればれで、杏也君に『こわくて寝むれなくなったら、いつでもお兄ちゃんの部屋に来ていいからな』って言われてたよね。あんずちゃんは『ダックスがいるから遠慮しとく』って釣れなく拒否してた。

その言葉を聞いて、ぼくはあんずちゃんに信頼されているんだなって、ちょっとだけ嬉しくなったんだ。


「ダックス、朝起きてお兄ちゃんがゾンビになってたらどうしよう……食べられちゃうかもしれないよね」


(それは無いと断言できるから安心してほしい。あれは作り物だからね)


……あんずちゃんはあれかな。


映画に登場したゾンビ達がこの世に存在すると信じてるのかな。

小学四年生くらいだと純粋にそう思ってるのかもしれないね。

実際にあんなのがうじゃうじゃいたら、大パニックになるだろうな。


「ぞんびが襲ってきたらあたしを守ってね。もしもあれに遭遇したら、竦んじゃって動ける自信ないから……」


隣で寝転ぶぼくの体をあんずちゃんがぎゅっと抱きしめる。

あんずちゃん、しっかりしてて言動とか大人っぽいけど、やっぱりまだまだ子供なんだな。


(大丈夫。安心して。君は絶対にぼくが守ってみせるよ。相手がゾンビだろうと杏也君だろうとなんだろうと、尻尾巻いて逃げたりなんかしないから)


——ぼくは誓ったんだ。


この命続く限り、あんずちゃんをどんな危険からだって守り抜いてみせるって。








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