第46話

あんずちゃんの家で暮らし始めて一年が過ぎた。毎日が楽しいと時の流れが早く感じる。

小学三年生から四年生になったあんずちゃんは最近、身長がほとんど変わってないのを気にしている。

女の子はあんまり大きくない方が、可愛らしくてちょうどいいんじゃないかな。


「ねぇ、ダックス……もしかしてあたし、四年生にして成長止まった?」


(犬のぼくにそんなこと聞かれても……なんと言葉を返したらいいのか)


現在、ぼくはあんずちゃんと共にお風呂に入っている。

さすがに毎日では無いが、あんずちゃんはぼくの体を頻繁に洗ってくれるのだ。

体を洗ってもらったあとは、おっきいサイズの洗面器にのせられてぷかぷかとお湯の上に浮かんでる。


「……なんて、ダックスに聞いてもちんぷんかんぷんだよね」


「ワン」


ぼくは犬語しか発声できないし、あんずちゃんの期待に応えることはできないが、一応返事だけはしておこう。

言葉が通じないからこそ、相談しやすいというのもあるのかもね。

あんずちゃんはぼくに色々なお話をしてくれるから。


「お兄ちゃんは背おっきいし、妹のあたしにも可能性あると思うんだよね」


あんずちゃんちはお金持ちの家庭なのか、お風呂場と風呂釜がやたら広い。ゆったりくつろげて最高です。

まあ、ぼくはお湯の上を浮かんでるだけだけど……一緒に入ったら深過ぎて溺れちゃうからね。


「ワンワン!」


「頑張れって……? 牛乳いっぱい飲んだら背伸びるかなぁ」


なんとなくだけど、あんずちゃんにぼくの気持ちは伝わってるみたい。

ワンワンって言っただけなのに、応援のエールを送ったってわかってくれたんだ。

あんずちゃんは成長期なんだし、特に気にする必要は無いと思うよ。これからこれから。


「お魚食べるともっといいかも。今日の晩御飯はお兄ちゃんに頼んでお魚にしてもらおう」


運動と睡眠がいいってのも聞くよね。

あんずちゃん、どっちも適度にしてるから徐々に効果が出てくるんじゃないかな。

ぼくと散歩に行って歩くだけでも、多少の運動になってると思うんだ。


「ダックスはどうする? お魚にする?」


「ワン!」


「そっか。じゃあお魚に決定だね」


——この日の夕食は、あんずちゃんの希望通り、メインはお魚になった。


そもそも妹大好きな杏也君は、あんずちゃんのお願いを断ったりしないからね。

酢豚を作るつもりだったみたいだけど、焼き魚に急遽変更してた。

それにしても、杏也君は調理科だけあって、何作らせても上手だなぁ。

将来はプロの料理人にでもなるのかな?




















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