第44話

「お兄ちゃんさ、顔だけはまともなんだから彼女でも作ったら?」


「顔だけとは失敬だな。料理も上手いだろ」


朝食を食べ終えて間もなく、あんずちゃんはぼくを外へ連れ出してくれた。

学校がある日の散歩の回数は午後の一回のみだが、お休みの日は朝昼夕と三回も付き合ってくれている。

杏也君はバイトとか用事が他に無い時は、ぼくたちのさんぽに決まってついてくるんだ。


「それ自分で言う? まあ、あたしにそれなりに教えられるんだからそうなんだろうけど。休日に妹の後追っかけ回して悲しくならない?」


「俺さ、女子から告白とか日常茶飯事なんだけど、全部断ってるんだ」


「え、なんで……?」


杏也君のまるで理解できない言動に、あんずちゃんは歩くのをやめて、後ろをついてくる杏也君を見た。

特に理由は無いと思う。ただ好みのタイプじゃなかっただけじゃないかな。


「俺には妹がいるからごめんって」


ちょっとよくわからない、理解不能な理由だった。

妹がいるからなんだというのだろう。


「きも。そんなんじゃお兄ちゃん、いつまでたってもどう……」


「童貞か? 俺の可愛い妹がませた言葉を……お兄ちゃん悲しいわ」


今は携帯とかでネットが使えたりするらしいし、あんずちゃんに限らず、他の子だってそれなりにませてるんじゃないのかな。


「そうですかそうですか。勝手に悲しんでてもらって結構ですよー。ダックス、行こう」


「ワン」


杏也君を置き去りにして、あんずちゃんとぼくは散歩を再開する。

どんなに嫌がれようと、杏也君はあんずちゃんのあとをどこまでもついてくるんだけどね。


「なんでついてくるの。ついてこないで」


「さっきも言ったが、俺はお前をだな——」


「お父さんに頼まれてるんでしょ。でも、さすがに過保護過ぎない? ダックスがいるんだから、あたしになにかあったとしてもダックスが守ってくれるよ」


あんずちゃんがぼくを頼りにしてくれるなら、もちろん全力で守るよ。

あの日、あんずちゃんが拾ってくれなかったらぼくはどうなっていたかわからないんだ。

もしかしたら誰にも手を差し伸べてもらえずに死んでいたかもしれない。

心から感謝してるんだ。


「ワンワン!」


「ほら、ダックスも任せろって」


「頼もしいが、ボディーガードは多いに越したことはない。一人よりも二人。二人よりも三人。三人よりも四人のほうがより安全だ。だから俺もついていく」


真剣な顔で真剣な言葉を並べられたら、あんずちゃんは溜息をつく以外に何もできることがない。


「お兄ちゃんには何を言っても無駄そう。いちいちついてこないでって言うのもめんどくさいし、どうしてもついてきたいならついてくれば?」


結局あんずちゃんは、嫌々ながら杏也君の同行を許可した。

あんずちゃんの言う通り、杏也君は何を言われようと納得せずについてくると思うな。


























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