第43話


あんずちゃんの家で飼われてから一か月が経過した。

ご両親が忙しい人達みたいで、おにいさんの杏也君と二人暮らしみたいな生活が長い間続いているみたい。

ぼくのことは結局、電話という形でご両親に飼っていいかどうかをあんずちゃんが聞いてくれた。

結果は「飼っていいよ」って即答だったんだって。


「今日もお父さんとお母さん、帰ってこないんだ……」


「父さんと母さんが働いてくれているから、俺とあんずはこうして何不自由なく生活ができてるわけだ」


「……そうかもしれないけど、働きすぎ。ほんのちょっとくらい帰ってきてくれないとさ、そのうちどんな顔してたとか忘れちゃいそう。それくらいに帰ってきてない」


あんずちゃんは現在小学三年生だそうで、まだまだご両親に甘えたい年頃なのかも。

ちなみに杏也君は高校二年生。


「お兄ちゃんとの二人暮らしは不満か? 俺はあんずを独占できて楽しいぞ」


「お兄ちゃんといると身の危険を感じるからイヤ。シスコンもほどほどにしてほしい」


いつもの朝食の風景だ。

あんずちゃんはこの歳にして、自分で料理をそつなくこなす。

ぼくにも目玉焼きを作ってくれた。

これが中々、形が綺麗に仕上がっている。

二人はなんだかんだ言っても仲良く会話をしているし、兄妹関係は良好に思う。

食事はだいたい二人一緒に作ってて、あんずちゃんの料理の先生は杏也君だ。


「俺は父さんに頼まれてるんだよ。俺の代わりにおまえがあんずを守れってさ」


「心配いらないよ。あたしのボディーガードならダックスがいるから。これにてお兄ちゃんは用済みで。ダックス、お兄ちゃんがあたしになにかしようとしたら遠慮なくかみついていいからね」


「ワン!」


あんずちゃんの杏也君に対する憎まれ口がすごいが、杏也君はまったく気にしていない。

これが歳上の余裕なのか、大好きな妹には何を言われようがご褒美だと思っているのかは定かではない。


「なにかしようとしたらって、例えばどんな?」


「頭なでようとしたり、だっこしようとしたり、膝に乗せようとしてきたり、あたしがやられて屈辱に感じるここらへん」


あんずちゃんは指折り数えながら、杏也君にやられて嫌なことベスト3をあげた。

なるほど。特にその三つが屈辱に感じるんだね。

あと、やたら可愛いと褒められるのもあまりいい気分じゃないみたい。


「——それって、あんずが全部ダックスにやってることじゃね?」


「だ、ダックスは犬だからいいの!」


はい。ぼくは別段不快に思っていません。

むしろ、飼い主のあんずちゃんに全力で可愛がってもらえてると実感できて嬉しいです。

何度も散歩に連れて行ってくれて、夜は一緒に寝てくれて、あんずちゃんはほんとうに優しい。

あんずちゃんに拾われてぼくは果報者だな。

















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