第41話

あんずちゃんに抱っこされて招待された家は、二階建ての今風で瀟洒な外観をしていた。

今風とか瀟洒とか、犬の分際で何言ってんだって思われるかもしれないけれど。


「ここがあたしのお父さんのおうちで、あたしが住んでるところ。——入ろっか」


まだ幼いのに「あたしのおうち」と言わないあたり、しっかりしていらっしゃる。


——さてさて、ぼくはあんずちゃんのご家族に受け入れてもらえるのかな?


あんずちゃんの話し振りからして、ノープランぽかったからなぁ。とんぼ返りだけは勘弁していただきたい。


「こっそりお風呂入れてあげるね。びっしょりできもちわるいでしょ?」


それはとてもありがたい。


……えっと、こっそりということは、ご両親にぼくを飼うというお話はしないおつもりなのでしょうか。


「ただいまー……」


あんずちゃんが家の鍵を取り出して、玄関扉のロックを解除する。

そして、小さくただいまと声に出しながら、中を覗き込んだ。

どうやら、家の中に誰かいないか確認しているご様子だ。


「おう。おかえり。愛しの妹よ」


「……お兄ちゃん、帰ってたんだ。……見た?」


「見たってかおまえ、まったく隠すつもりないだろ。めちゃくちゃ堂々と見せびらかしてるしさ」


「うん。隠しようがないし、もういいかなって」


階段をおりてきたのはあんずちゃんのおにいさんらしい。

ふうむ。あんずちゃんに負けず劣らずといった美男子。兄妹揃ってお綺麗でいらっしゃる。

学校の制服を着ていて、背がまあまあ高い。おそらくは高校生。


「その犬……ミニチュアダックスフンドだな」


「みにちゅあだっく……なに? なにかのじゅもん?」


「その犬の犬種だよ。飼うのか?」


あんずちゃんはこっそりと養ってくれるつもりみたいだったけれど、おにいさんにさっそくばれてしまっては仕方がない。


「お父さんとお母さんにはないしょ。お兄ちゃんが黙ってればわからないでしょ」


「別に隠さなくったって、父さんも母さんもあんずの頼み事ならなんでもオーケーするだろ。二人とも、あんずのこと溺愛してんだから」


「そうかなー……そうだといいけど」


「俺はもちろんあんずが黙っててほしいなら黙ってるぞ。可愛い妹の切なるお願いだからな」


「ああ、うん。じゃあ黙っててー……」


あんずちゃんはそれだけ素っ気なく言って、すたすたと二階へ続く階段をのぼっていく。

おにいさんに可愛いと言われて、心底うざそうな表情だった。

可愛いと言われ慣れてそうなあんずちゃんに、その褒め言葉は通用しないのかもしれない。



























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