第40話



ぼくはミニチュアダックスフンド。世間一般的に犬と呼ばれている動物だ。

現在薄汚れたみかん箱の中で、新たな飼い主を絶賛募集中だったりする。

誰か拾ってくれないかなぁ。今日は雨も降ってるしなんだか薄ら寒い。

ぼくが捨てられた場所は通学路。

小学校から下校する子供達が、ぼくをちらちらと物珍しそうに見ているよ。

一つだけ幸運だったのは、ぼくがミニチュアダックスフンドというまあまあ人気のある犬種なことかな。

美人なお姉さんに拾ってもらいたいなぁとか、美人なお姉さんと巡り会いたいなぁとか、そんな贅沢は言わない。

誰かぼくを拾ってください。お腹が空いて死にそうです。二日も飲まず食わずは結構辛い。

……あと何日持つかな。

雨が降ってるから喉は潤せたけど、このままだと餓死してしまう。それだけは嫌だな。

だってぼくは死にたいわけじゃない。

もっとこの世界で色々なことを知って美味しいものをたくさん食べて、純粋に生きていきたいと思っているのだから。


「……あなた、おなまえは?」


そう声をかけて、雨でびしょびしょになったぼくに傘を差してくれた女の子。

ランドセルを背負ってるから小学生だというのはわかるが、年齢まではわからない。

多分だけど、背が小さいから二年生か三年生くらいだろうか。

確実に一つだけ言えるのは、その女の子の見た目が非常に整っていて、将来が楽しみだということだ。


「ワンワン!」


「わっ……!? びっくりした……」


驚かせてごめんね。ぼくの言葉は人間に通じないって知ってる。

ぼくを捨てた飼い主もそうだったからね。

名前を聞いてくれたところ申し訳ないんだけれど、ぼくには名前が無いんだ。

だって、名付けられてなかったから。

基本『犬』ってぞんざいに呼ばれてたかな。


「こんなとこにいたら風邪引いちゃうよね。……あたしのおうち、来る?」


「ワンワンワン!」


「嬉しいの……?」


嬉しいです!

うまく伝わらないかもしれないから、わかりやすく尻尾をばたばた振りまくって、できる限りの嬉しさを表現します。


「そっか。それじゃ、いっしょにいこ」


女の子は、ぼくの濡れた体など少しも気にする様子もなく抱き上げてくれた。

これからぼくはこの子の家でご厄介になるのだろう。どんなところか楽しみだ。


「あたしのなまえ、あんずっていうの。これからよろしくね、名無しの権兵衛君」


え……?


もしかして、それってぼくの名前かい?


犬って呼ばれるのも酷かったけど、こっちはこっちで結構酷いな。


とりあえず、この女の子の名前があんずちゃんってこと、ぼくの名前が名無しの権兵衛に決まりそうなことがわかったよ。

できればもうちょっとひねった名前にしてほしいかな。贅沢は言わないから……。





































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