第38話
今日の昼飯タイムのときなんだが、俺の不注意で歩美の手作り弁当を丸々落っことして無駄にしてしまった。
歩美はもちろん平常運転で、少しも俺を責めたりすることなく、自分の分の弁当をわけてくれた。
「——これ、なんか既視感あるなーって、前にも同じようなことがあったようなさ。それで数秒後、ハッと思い出したんだ」
またしても俺は、どうでもいいような話を歩美に聞かせている。
五時間目が自習になり、やることが特になかったからだ。
「うん。前にもあったよ。私と博也が仲良くなったばかりのころ、給食の時間に」
「さすが歩美、記憶力がいいな。話が早い」
「なにその話、僕気になる」
「大して面白い話じゃねぇぞ。しかも速攻で終わる」
——あれはそう、児童が大好きな席替えというイベントがあって、幸運にも俺が歩美と隣の席になったその日、給食の時間に起こった出来事だ。
「俺が自分の給食を床に盛大にぶちまけちまってな。その日は誰も欠席のやついなくて余りもなかったし、牛乳だけで我慢するしかねーかなってめっちゃ凹んでたんだ」
「ほかのクラスからわけてもらったりしなかったの?」
「奇跡的に他のクラスもすっからかんだった。どうしても俺に給食を食わせたくなかったんだろうな。どのクラスも全滅だ。しかしそんな時、俺のことを助けてくれたのが——」
「あーちゃんだね」
「話の途中でオチを当てるとはどんな料簡だ。杉並さんよぉ」
「最後まで聞かなくたってわかるよ。博也君を率先して助けてくれるのはあーちゃんしかいないし」
……いやいやまてまて、その決めつけはよろしくないな。
あと数人はいるだろ。
降旗とか諒とか、あとおまえとか。
「ちょっと言い方に棘がある気がするが、まあいい。そうだよ。おまえの言う通り、あーちゃんが助けてくれたんだよ。給食を半分わけてくれたんだ」
「博也にその呼び方されるのなんかイヤ」
「杉並がつけたにしてはまあまあな愛称だよな」
給食なんて元々一つ一つの量が少ないのに、自分が食べる量が減るのを顧みずに中々できることじゃない。
歩美は以前からほんとうに優しい。
「あーちゃん、そんなに前から手が掛かる博也君のお世話してたんだ」
「手が掛かるは余計だけどな」
「いいなー。僕もあーちゃんに色々とお世話されたい。博也君だけずるい」
毎日弁当作ってもらってるくせに、コイツはこれ以上何を歩美に求めると言うのか。
色々ってのが、なんか意味深だな。
杉並、歩美のこと好きかもとか言ってたし。
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