第36話

前にも話したと思うが、俺は自分が通っているこの高校が嫌いだ。

その理由は数多ほど存在するが、その一つに頭髪検査なるものがある。

これが結構厳しめで細かいらしいんだよな。


「前髪!揉み上げ!えり橋!全部ダメ!」


頭髪チェック担当教師の耳障りな声が円形体育館内に響く。

全部ダメなのはどいつが見ても明らかだろう。なんてったって髪なんか切ってきてないからな。

毎回毎回これのために生徒を集めるつもりか? 別に髪を染めてるわけじゃないんだ。時代錯誤過ぎるだろ。

帰りのホームルームで、担任の船木とかいう女教師が「うちで頭髪検査引っかかったのアンタだけだよ!」と全クラスメイトの前で糾弾してきた時は、イラッとして途中退室した。それ、わざわざ言う必要あったか?

歩美と杉並が俺のことを庇ってくれていたが、俺はそれでも怒りが収まらないでいた。


「……博也って怒っててもちゃんと待っててくれるから優しいなって思う」


「俺が怒ってるのは頭髪検査とふなばあに関してだからな。歩美にあたったりしない」


ふなばあとは俺が担任教師に勝手につけたあだ名だ。

自分では結構気に入っている。


「女子は髪を染めてないか確かめられるくらいだからあれだけど、男子は髪短くしなきゃならないし可哀想だよね」


教室からは出て行った俺だが、教室前の廊下に座り込んで、ホームルームが終わるのをじっと待っていた。

いつも歩美と一緒に帰宅するんだから、俺が他の場所にいちゃ探すのが大変だろう。


『博也を悪者と決め付けるような言い方はよくないと思います』


『せんせー。僕、博也君の髪そんなに長くないと思うんですけど。判定が厳し過ぎるんじゃないですか?』


二人が俺を擁護する声が教室内から廊下まで

聞こえてきていた。

杉並まで俺の味方をしてくれるとは予想してなかった。大概居眠りで夢の中だからな。


「藍莉ちゃん、一生懸命博也のこと守ろうとしてくれてたよ」


「だな。なんかちょっと嬉しかったわ。杉並、ありがと——って、あれ……?」


聞き間違いじゃないよな?

いま歩美ははっきりと杉並をこう呼んだんだ。

いつもの杉並さん呼びではなく、って。


「……あーちゃん」


藍莉ちゃんと名前で呼ばれて、杉並はこの上なく嬉しそうな表情をしている。

歩美からやっと、気が置けない友達として認められたんだ。

きっと感慨深いのだろう。


「えっと、藍莉ちゃん……もしかして、あーちゃんって私のこと……?」


「やったー! やっとあーちゃんが僕のこと下の名前で呼んでくれたー!」


杉並がぎゅっと歩美に抱きついて喜びを体で表現する。

歩美の問いかけなどおかまいなしだ。

あーちゃんって呼びたいってあの日言ってたもんな。

されるがままの歩美は何が起こったのかわからずに困惑しているが、これはこれで微笑ましくていいと思う。

歩美に心を許せる女友達が増えるのは喜ばしいことだ。























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