第35話
俺のいとこの女子で同い年。
なにやら聞いた話によると、俺の通う学校の普通科に入学したらしい。
これは諒からの情報だ。二人は偶然にも同じクラスで席も近いようだ。
小二くらいまではちょくちょく会っていたが、小三になったあたりで関係は徐々に薄くなっていき、会う回数もほぼ無くなった。
向こうが引っ越して、手軽に会いに行ける距離でなくなったのがファクターと言える。
諒が言うには、校内で美少女と名高い美術デザイン科の坂本歩美と調理科の降旗杏子に好かれるいとこが、どれだけかっこよく成長してるのか興味があるとのこと。
そんなしょうもない理由で会いに来るのは迷惑だからやめてほしい。
俺がイケメンかどうかは噂が立っていない時点でお察しだろうし、おまえの近くには文句なしでイケメンの諒がいるじゃないか。
そもそも、歩美も降旗も、俺がかっこいいかかっこ悪いかなんてこれっぽっちも考えてないのにな。
「おーっす! ひろくーん! 愛しのありちゃんが普通科から会いに来てやったぞー!」
そいつは突然嵐のようにやってきた。
いつ会いにくるのかは知らされてなかったから、急過ぎる来訪に驚かされた。
——にしても、教室の扉をバンと勢いよく開けるのは感心しないな。
クラスメイト達も驚愕してる。おまえにこぞって視線を向けてるぞ。
「……えーっと、坂本さんと一緒にいるってことは、あんたがひろくんでいいんだよね?」
在処は俺のことを『ひろくん』と呼んでいた。姿形はだいぶ変わっちまってるが、こいつは在処で間違いない。
「おい、なんだその確認の仕方は。俺が完全に歩美のおまけみたいになってるじゃねーか。——その通りだから別にいいけど」
今は昼飯の真っ最中。
教室での歩美と二人っきりの弁当タイムに水を差された気分だ。
ちなみに今日杉並は休み。バイトのし過ぎで過労によるダウンだそうだ。
「ふうん、可愛いじゃん。お人形さんみたいに整った相好。マシュマロみたいな白い肌。保護欲をくすぐられるような小さめの背丈……」
在処は俺から早々に目を逸らして歩美の方へ振り向き、気持ちの悪い表現を連発した。
歩美の右頬に手を当て、そのすべすべな肌の感触を楽しんでいる。
「あ、あの……」
「ま、ありかの美貌とスタイルの前ではそれも霞むけど」
口には出さなかったものの、歩美と在処では勝負をする必要もなくすでに勝負がついてる。
そこまで言い切れる自信はどこから来るのだろう。我がいとこながら非常に恥ずかしい。
——つうかこいつ、自分のことありかって呼んでんのかよ。ちょっと引くわ。
(…………ん?)
歩美が在処にバレないよう俺の制服の袖をつまんで、くいくいと軽く引っ張っている。
これは、助けてって意思表示でいいんだよな……?
「おい、あり——」
「大築、そこらへんにしておけ。歩美ちゃんが困ってるだろ」
俺が在処の馴れ馴れしい振る舞いをやめさせようとしたところ、諒がやってきてそう声をかけた。
諒は教室の扉に背を預け、腕を組みながら在処を鋭い目つきで睨みつけ牽制している。
そんな諒に気後れしたのか、在処は歩美の頬から大人しく手を離す。
「ちぇっ。またね、あゆちゃん。それと、ひろくんも」
在処が教室から出て行くときの去り際の言葉。
それとと言うあたり、あいつにとって俺は結局ついでみたいな存在らしい。
「あゆちゃんって……どこまで軽薄な奴なんだ。あいつは」
俺がなんか言っても在処は聞く耳持たなかったかもしれない。
グッドタイミングで諒が来てくれて助かったな。
「悪い。大築がおまえらの教室の場所を教えろってうるさくてな。案内するつもりだったが気付いたら忽然と姿消してた。ちと、追いつくのが遅かったか」
「いや、諒が謝る必要はまったくない」
諒が俺と歩美の席の前まで来て、謝罪の言葉を述べた。
そういや在処が自分勝手な性格だってこと、すっかり忘れてたわ。
女性恐怖症の歩美からしたら、急に親しくない女子から体を触れられるのは恐怖でしかなかったろう。
「歩美、大丈夫か?」
「なんだろう、この感じ……なんでかわからないんだけど、不思議とあんまり怖くなかったっていうか——博也に顔が似てたからかな」
「……え? 似てた? 俺が? あいつと?」
冗談だろ。いとこってだけで兄妹でも双子でもねぇんだぞ。
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