第33話

「坂本、さん……どう、して……ないてるの?」


俺の顔にぽたぽたと当たる水滴。すぐ近くに坂本さんの顔があった。

地面との激突で体がすげぇ痛い。泣きたいのはこっちなんだよな……。


——でもまあ、美少女に膝枕されて見る澄み切った青空ってのも中々悪くない。


「ほんとうに飛び降りると思わなかった……少しも、迷いがなかった……」


「こうでもしないと……はなし、聞いてくれそうに、なかったからな……それよりどうよ。死ねなかっただろ」


「私なんかのためにこんなことして……ばかだよ……こんなことしても、何の意味も無いのに……ただ痛い思い、するだけなのに」


「坂本さんの自害を止められたなら、安いもんだ」


「私、ほんとうは恐かった。恐くて恐くてたまらなかった。死ぬのって、すごい勇気いるから……どんな方法でも絶対に痛いし、できることなら自害なんてしたくなかったんだ」


首吊ったり包丁で心臓貫いたり、飛び降りだってそうだが、どれを選択してもそれ相当の痛みは覚悟する必要がある。

歩美の言った通り、勇気がなきゃできる行動じゃないよな。

途中でためらって断念するやつが大半じゃないだろうか。


「……わかるよ。心から死にたいと思ってる人なんていないんだ」


自身も泣きそうになるのを何とか堪えていたが、体の痛みと歩美の涙に釣られ、とうとう涙が滲み出る。

歩美に泣き顔、カッコ悪いから見せたくなかったんだけどな。

このときの俺は小3のまぎれもない子供で、そんなに我慢強くなかったのかもしれない。


「もう……死ぬなんて、言わないよな。坂本さんが俺の身を案じて泣いてくれてるように、坂本さんの身に何かあったら俺は悲しいんだよ。他の友達だってそうだ」


「……ともだち、か……私にともだちなんて一人もいないけど……」


「俺がいるだろ。友達がいないなら俺が最初の友達になる。困ってるときは力になるし、君が望むならいつだってそばにいてやる。——坂本さんが何に悩んで何に絶望して何に我慢の限界が来て、その果てに自害を選んだのかは知らない。でも、これからは俺を頼れよ」


そこまで言って、ゆっくりと上半身を起こす。

俺の体はこの通り何でもないから心配するなと、歩美のサラサラで綺麗な髪を軽く撫でる。

いつまでも泣いている歩美を泣き止ませるために取った行動だった。


「俺が全力で、全身全霊をもって、君を守るからさ」


——あの日誓ったこの言葉に嘘偽りは無い。


俺は歩美の味方だ。

今までも、これからもずっと。

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