第31話

「僕、坂本さんのこと好きかも」


「気持ちはわかる。だがはやまるな。目を覚ませ」


何故俺は杉並宅に上がってこんな話を聞いてるんだろうなぁ。

外観はあんなだが、アパートの中は普通に見れる内観だ。

汚くはない。物が異常に少なくてがらんとしているが。

これが女の子の部屋か。畳が妙に渋い。


「気付いたら坂本さんを目で追ってるんだよ」


「わかったわかった。わかったから落ち着けよ。歩美は可愛いからな。男子だけじゃなく女子にも人気がある。杉並が恋心を抱いてもなんらおかしくはない」


おかしくはないが、好きとは言ってもレベルがあるだろ。

毎日手作り弁当貰って歩美の優しさに触れて、気付いたら同性愛に目覚めちまっていたと?


「居眠りから目が覚めて、横を見ると坂本さんがいる。自然に坂本さんに目がいく。あゆみちゃん……ううん、あーちゃんって呼びたい」


こいつ、授業中堂々と寝てるもんな。

優しくてノリがいい英語教師にはくすぐられて起こされて、怒るとちょっと怖い数学教師には教科書で頭ペシンってされて。

……しかしまあ、あーちゃんか。

中々いい愛称だ。

可愛い歩美によく似合ってる。杉並にしてはまともかもな。


「あーちゃんと呼ぶのは勝手だがな、一つだけ言っとくぞ。歩美は俺のだからな。俺から歩美を横取りするなよ」


「えー、ちょっとくらいいいじゃん。あーちゃん僕にも貸してよ」


さっそく、あーちゃんとか呼んでるし……。

貸してとか、歩美は物じゃないぞ。

そういや、出会ったばかりのころは俺も歩美をどう呼ぶか色々と迷ったもんだ。

結構色んなあだ名付けたりしたんだけど、どれも気持ち悪いって言われて却下された。懐いな。


「貸してって、歩美に何するつもりだよ?」


「何って、そんなの決まってんじゃん。ふだん博也君があーちゃんにしてることだよ。抱きついたり頭撫でたり」


「俺はそんなこと一切してねぇ。頭撫でるの好きなのは降旗だ」


降旗が撫でるのは俺限定ではあるが。

杉並は段々と女版俺みたいになってないか?

歩美に色々と面倒見てもらえるのは俺だけの特権だと思ってたのに。


「ほんとかなぁ。あんなに可愛い子に全く手を出さずに放っておく男の子がいるの? 僕から見たあーちゃんは、テレビに出てる有名な女優さんよりも圧倒的な可愛さと綺麗さを兼ね備えてるよ」


「おまえの絶賛には大いに同意するが、本人は自分のことを可愛いとか綺麗とか、これっぽっちも思ってないんだよな。俺が可愛いって言ったってほぼ無反応だし……」


まあ、そういう控えめで謙虚なところも、歩美の魅力の一つだよな。

俺はもう少し、自分に自信を持ってもいいんじゃないかと思ってるけど。
















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