第30話
「ここへ来るのは二度目だな。やっぱりボロい」
とても人が住んでいるとは思えないほどにボロいアパート。
以前来たときは留守で杉並に会えなかったんだよな。
バイトが終われば帰ってくる筈だが、いかんせんあいつが何時まで働いて何時に帰宅するのかわからない。
どこでバイトしてるのかも特に聞いてないしな。
とりあえず、呼び鈴を鳴らさないことには何も始まらないか。
「……まだ帰ってない、か……」
不在じゃないかと予想してたがやっぱりだ。
こりゃこの前みたいに扉の下に置いて帰るしかないかな。
——そうだ。
そういや杉並に番号聞いたんだったわ。電話してみよう。
仕事中なら出ないかもだが、物は試しだ。
「ああ……えっと、杉並か? 俺、俺だけど」
「オレオレ……? それ僕しってる! たしか、オレオレ詐欺ってやつだよね!」
……電話に出て早々ふざけてきやがったが、一応繋がったみたいで良かった。
つうか、俺の番号登録してりゃ相手が誰かなんてすぐにわかるだろ。
「ちげぇよ。そんなことより、今おまえんちの前まで来てるんだが」
「うん。そのようだね」
そのようだねってなんだ?
言い方がなんか引っかかる。まあいいや。話を続けよう。
「おまえまだバイト中か? 放課後降旗がデザイン棟に来てな、差し入れを持ってきてくれたんだ。降旗がおまえにも持ってってやれって言うから、おいなりさん持ってきたんだが——」
「おいなりさん!? やったー!」
「ひっ……!?」
突如、後ろからガッと両肩を掴まれる。
ビックリして変な声だしちまった。
聞き慣れた
「す、杉並……今帰りか?」
「うん。帰ってきたらちょうど博也君が僕のうちの前に立ってたから、後ろからこっそり近付いて驚かしてみようかと」
「驚かさんでいい。危うく降旗特製のおいなりさんを落として無駄にしちまうとこだったぞ」
まるで小中学生のノリだな。心臓に悪いからやめてほしいんだが。
今や俺と杉並は、こういうイタズラを許容できるほど親しい間柄になったんだな。距離がだいぶ縮まったもんだ。
「わ、ほんとだ……あぶないあぶない。博也君が落とさないでくれてよかったー」
「……これに懲りたら次からは自重してくれよ」
杉並が貧乏だと知った降旗が、また俺におつかいを命令するやもしれん。
歩美も降旗も、人のことを思い遣れて優しいのは昔から変わらない。
あの二人の容姿と性格が完璧なのは周知の事実だ。それが人気の理由なんだろうな。
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