第28話
「へー。それじゃ、チャンスを見す見す二度も逃したんだね。ご愁傷様」
「『見す見す』とか『ご愁傷様』とか、杉並、おまえ結構ひどいやつだったんだな」
昨日の礼がしたいと杉並に言ったら「ジュースが飲みたい!」と即答されたので、一緒に自販機のある渡り廊下まで行くことに。
それくらいの金額で済むなら安いもんだ。
「そんなに後悔してるなら僕がしてあげようか」
炭酸飲料を一口グビッとやったあとで、杉並がそんなことを言い出す。
昼飯をどこで食べるかで、俺の返答も変わるな。
教室でとなればまず無理だ。
「俺の周りの女子は恥じらいの無いやつばっかりかよ」
「恥じらい? それっておいしいの?」
「おいしくねぇよ、多分不味い。そろそろ次の授業が始まる。教室に戻ろうぜ」
そもそもだ、どこで食べようが歩美は一緒なんだから、誰かに見られながらってのは変わらない。
……結局、俺の望みが叶うことはないか。
「降旗さーん……人目があるとこで俺の髪触るのやめてくんない?」
「なんで?昨日のお礼がしたいんでしょ」
次の休み時間は調理科に行こうとしてたんだが、都合のいいことに降旗が美術デザイン科に赴いてくれた。
教室から廊下に出たら、ちょうどこっちに向かって歩いている姿が見えたんだ。
「確かにそう言った。確かにそうは言ったが……時と場所を考えてだな」
何も美術デザイン科教室前の廊下ですることないだろ。
俺とおまえの関係を疑われるわ。
彼女とか恋人とか、そんな甘い関係ではなく主従的な意味で。
「堪能するならもっと人気の無い屋上とかで———」
「ねぇ博也、お昼も髪触りに来てもいい?」
「お、おお……うん。いいぞ……」
まったく、俺なんかの髪触ってあいつは何が嬉しいんだかな。
いくら飼い犬に雰囲気が似てるからって、スキンシップが過ぎる気が……まあ、あいつに輝かんばかりの笑顔でお願いされたらどうせ断れないんだけれど。
これが彼氏彼女の愛情表現なら、気にならんのかもしれないが。
「うおっ!?」
教室の扉をちょろっと開けて、同じクラスの男子諸君が盗み見るように俺のことを凝視していた。
この様子だと、降旗との一部始終を見られていた可能性があるな。
超絶可愛いと校内で有名なあいつを一目みたい気持ちはわからんでもないが、俺が頭を女子にされるがままにされている姿はできれば見て欲しくなかった。
「博也、モテモテだね」
「あれはモテてるとは言えないだろ。俺と降旗にとっちゃ、なんも珍しくないいつもどおりのことだしな。日課みたいなもんだ」
やれやれと自分の席に腰を下ろす。
昨日空席だった左隣の席には歩美がいて、大袈裟ではあるが、俺にとって当たり前な日常が戻って来たって感じがする。
歩美がそばにいてくれるだけでこんなにも落ち着くんだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます